ドラフト総決算2012 ~第7章~ 本命無きスタートライン

選手コラム

 不安の中のスタート

 いよいよドラフト会議の1年間となった2011年、東洋大・藤岡貴裕、明治大・野村祐輔、光星学院・川上竜平など、共に戦った先輩がプロ入りを果たす、華やかなドラフト会議の舞台だったが、会場を沸かせる大歓声と共に、そこから運命が狂い始めたチームと選手がいた。

 相思相愛の東海大・菅野智之投手と読売ジャイアンツだ。菅野智之投手はリーグ通算37勝を挙げ、藤岡、野村と共に大学BIG3と呼ばれたドラフトの目玉投手だったが、巨人・原監督と親戚であり、間接的に逆指名を行い巨人が単独指名と思われていた。しかし、その実力を高く評価した北海道日本ハムが果敢に指名し抽選で交渉権を獲得した。11月には1年浪人して翌年に巨人入りを目指すことを決断し、交渉を行うことは無かった。そしてその時、2012年ドラフトに突然、目玉候補が加わり、また、巨人のドラフト1位指名選手が確定することになった。

 東都大学リーグ、亜大・東浜巨投手は順調に成績を伸ばし、通算17度目の完封を挙げた。実績、球威、フォーム、制球、マウンド度胸。全てを持っていた東浜だったが、しかしリーグ戦では球速が延びない。140km前半のストレートが目立つようになる。「東浜がおかしい」、異変は観客にもプロのスカウトにも伝わっっていった。チームはリーグ制覇を果たし明治神宮大会に出場するも東浜投手の登板は無く、12月に行われる大学日本代表選考合宿には、肘の故障のため参加を辞退したのだった。

 花巻東・大谷翔平も不安の中にいた。骨端線損傷の影響で秋の大会は登板することができない。それでも周囲の期待は高まっていく。2011年のドラフト会議が終わると、プロ球団も大谷の名前を口に出し始める。「大きな期待」と「投げられない現実」、両者の大きな開きからは大きな不安しか生まれない。2年生で151kmを投げる怪物ももがいていた。

 藤浪も苦しんでいる。大阪大会決勝で夏に敗れた東大阪大柏原を相手に1安打14奪三振で完封して優勝したものの、近畿大会では準々決勝の天理戦で突然の乱調を見せる。6回に3連打を浴びると、7回にも長打を許し、4-8で天理に敗れた。センバツ出場確実のベスト4を逃し、出場は選考に委ねられた。この試合から1年間無敗を記録する大阪桐蔭だが、最初はギリギリのスタートだった。

 BIG3 

 ドラフトではBIG3、三羽烏という言葉が良く使われる。2011年は菅野、藤岡、野村の大学BIG3、2010年は斎藤、大石、福井の早大BIG3。その前には中田翔、唐川侑己、佐藤由規など。2012年はどんなBIG3が登場するのか、可能性があるのは大谷翔平、藤浪晋太郎を含めた文字通りのBIG3だったのだが、そこに飛び込んできたのは愛工大名電・濱田達郎だった。

 濱田投手は秋季愛知大会で2試合にノーヒットノーラン、準決勝の至学館戦も1安打完封、31回を投げて2安打44奪三振と、他を寄せ付けないピッチングを見せつけた。好調は明治神宮大会でも続き、神宮球場で146kmを記録するストレートで押しまくり、関東一、浦和学院を撃破し決勝に勝ち進む。BIG3の最後の一人として申し分の無い投球だった。

 その愛工大名電を明治神宮大会決勝で破ったのは光星学院。夏の準優勝を果たし、川上竜平は抜けたとはいえ、1年生から4番を打つ田村龍弘が3番に回り、4番には北條史也が座る。北條は神宮大会初戦で満塁ホームランを放つと、ショートに守備でも再三のファインプレーを見せる。そして決勝戦、愛工大名電・濱田達郎から決勝打となる3ベースを放ち、念願の全国1冠目を達成した。田村龍弘も東北大会決勝で2本塁打、明治神宮大会決勝でも濱田から2本の2ベースなど、天才打者は止まる事を知らない。光星学院が2012年の高校野球の中心となった。

 本命無きスタートライン

 スタートラインは走者がバラバラな状態からスタートしていた。失意の菅野智之、故障の東浜巨投手、大谷翔平、不調の藤浪晋太郎、そして好調の濱田達郎、北條史也、田村龍弘。しかし、ドラフト戦線はスタートを切った。

 いくらケガだったり調子が悪いとはいえ、高校野球史上稀に見る素質を持つ大谷翔平投手に、プロのスカウトが高い評価を出す。北海道日本ハムはドラフト1位候補に大谷翔平をリストアップすると、地元東北の東北楽天も獲得に向けた号令を掛けた。千葉ロッテ、福岡ソフトバンクは実績を高く評価し東浜巨投手をドラフト1位候補にすると、阪神は例年通りの報道量の多さで、東浜巨投手、大谷翔平と虎の恋人が出現していく。

 1月、チームの初練習にスカウトが初詣を行うのが恒例となっている。大阪桐蔭の初練習には阪神、福岡ソフトバンクが、亜大の初練習には中日、東京ヤクルト、横浜DeNA、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、埼玉西武、千葉ロッテ、東北楽天の8球団が揃った。

 そして、仕事始めの時期、各球団の第1回目のスカウト会議が開催されて1年間のスカウト方針が決まる。2010年は東京ヤクルトや千葉ロッテが斎藤佑樹の1位指名を決め、2011年には巨人が菅野智之を、千葉ロッテが藤岡貴裕の指名を決めて公表したのだが、今年は各球団ともリストアップにとどめていた。大阪ガス・松永昂大、大体大・松葉貴大、東福岡・森雄大、福岡工大城東・笠原大芽、慶大・福谷浩司など多くの名前が挙がったものの、広島からは本命のいないドラフトという表現が飛び出した。実績の東浜、素質の大谷も故障の程度がわからず、各球団とも1位指名決定までには至らなかった。春のキャンプシーズンに亜大・東浜巨投手が投球を開始し、花巻東・大谷翔平も順調なスタートを切ったというニュースと共に、多くの球団のスカウトが押し寄せていた。

 そして3月、選抜大会の組合せで決まったのは、第1日目第3試合・大阪桐蔭vs花巻東だった。

 続く 

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