ドラフト総決算2012 ~第11章~ 再び世界へ

選手コラム

 野球の夏は平等にやってくる

 おそらく野球の夏というと、圧倒的に高校野球を思い浮かべる。でも野球の夏はどんな選手にも平等に暑さを持ってくる。

 全国の予選を勝ち上がった社会人チームが全国トップを目指す都市対抗野球、高校野球の参加チーム数・3985チーム、に比べれば338チーム数と10分の1だが、若くて10代の選手から40代のベテランまでがプレーし、高校野球・大学野球を経て成熟したプレーを見せるレベルの高い戦いが各地で繰り広げられる。その中で本戦に出場した32チームが東京ドームで熱い戦いを見せる。

 パナソニックの秋吉亮投手、中央学院大でサイドから140km後半を記録するストレートを投げてドラフト候補となったもののサイドスロー投手の育成に定評のあるパナソニック入りし、1年目から活躍を見せていた。パナソニックvsJFE西日本の試合、初戦で6回途中までを1失点に抑える好投を見せた秋吉投手は先発しなかったが、変わりに先発したのは補強選手としてメンバー入りしていた大阪ガス・松永昂大だった。松永は7回を9奪三振無失点、8回ノーアウトで降板すると、2番手を挟んで2アウトから秋吉亮が登板する。秋吉は1回1/3をノーヒット、3奪三振で完封リレー、大学卒業2年目同士のドラフト候補完封リレーが完成した。

 共に闘った二人だが、秋吉亮はこの大会の後、チームからの要請を受け入れてチーム残留を決め、松永昂大はドラフト前に多くのチームからドラフト1位候補の名前が挙がる事になる。この二人の完封リレーがこれ1回きりになるのか、将来、実現するのか。それは実力と運が握る事になる。

 ドラフト候補同士の対戦も行われた。セガサミーvsJX-ENEOSではセガサミー・大山暁史と大越基志の社会人を代表する技術派左腕投手の対戦が実現した。社会人野球ファンにとっては注目の対決だ。大山暁史が1回2回にそれぞれ1点を失うと6回途中で降板、大越基志は8回ノーアウトまで4安打8奪三振1失点、3番・宮崎敏郎、⑤番・赤堀大智もそれぞれ1安打ずつに抑えて2-1でJX-ENEOSが勝利、大越の勝利となった。大越はそのまま都市対抗のMVPに当たる橋戸賞を受賞する。共にプロ注目の左腕、社会人での対決はこれが最後かと思われたのだが。

 ヤマハの石山泰稚は予選からの好調を維持して5回1/3を7奪三振2失点と好投を見せたが初戦で敗れる。NTT東日本・井納翔一も146kmの速球を武器に好投を見せる。JFE東日本の田面巧二郎が150kmを記録してリリーフ、NTT西日本の増田達至も伯和ビクトリーズを1回1/3をパーフェクトに抑える。この4投手はこの大会でプロ入りを内定することになるのだった。

 

 最後の夏

 されど夏の甲子園は熱闘だった。スカウト達は選手のチェックはほぼ終わっており、後は大舞台での活躍や、好投手にどんなバッティングをするのか、強力打線を相手にどんなピッチングをするのかなど最終段階のチェックを行う。

 世間はこの大会のヒーローを1試合22奪三振を記録した2年生、桐光学園・松井裕樹に定めたようだが、浦添商・照屋光、愛工大名電・濱田達郎、広島工・宇佐美塁大、酒田南・会田隆一郎、下妻貴寛などが鮮やかな夏を彩っていく。3年前に関西で共に成長を誓った龍谷大平安・高橋大樹、大阪桐蔭・藤浪晋太郎、光星学院・田村龍弘、北條史也も、それぞれ各地で成長した姿を見せるのだった。

 スポーツ紙は大会の結果と共に、敗れ去ったドラフト候補についての進路を載せていく。プロも試合のたびに選手の評価に対するスポーツ新聞の記者の問いに答える。東海大甲府・神原友は146kmを記録したストレートでベスト4まで勝ち上がる。準決勝では大阪桐蔭が明徳義塾を藤浪晋太郎の2安打完封で下すと、光星学院が北條史也の2本塁打と田村龍弘の1本塁打で東海大甲府を下す。常時140km後半を記録する197cmの大型右腕・藤浪晋太郎と、ここまで打率.533に2本塁打の田村龍弘、今大会4本塁打を記録した4番・北條史也の高校最後の対決が実現した。

 決勝戦、田村、北條を二人で1安打に抑えた藤浪晋太郎が、春夏連覇を飾る。160kmの大谷の話題に持ちきりだったプロのスカウトも、春夏連覇にふと我に返り、素質でも即戦力でもトップクラスの評価を与え、地元の阪神とオリックスが甲子園春夏連覇投手の価値も含めて、藤浪晋太郎投手の1位指名を決めるのだった。

 甲子園3大会連続準優勝に終わった光星学院だが、明治神宮大会の優勝を含め高いレベルを維持し続けた実力は本物だった。甲子園4本塁打の称号を得た北條史也もドラフト1位候補としての資格を手にする。

 

 再び世界へ

 中学時代にAA選手権で苦杯をなめた藤浪晋太郎と高橋大樹、今度は田村龍弘、北條史也、それに大谷翔平や大塚尚仁などと共に18U世界選手権に臨む。これだけの選手がオールスターで戦うチャンスであり、197cmの藤浪晋太郎と193cmの大谷翔平が共演するとあって、プロのスカウトも大会の行われる韓国へスカウトを派遣する。

 結果からいうと日本は6位に終わる。中学時代には7位であり、残念ながら世界の壁を超える事はできなかった。藤浪晋太郎は奮闘しベストナインを獲得する。攻撃でも田村龍弘、高橋大樹が活躍を見せるなか、北條史也のあたりが完全に止まってしまい、アメリカ戦では手痛いエラーを見せてしまう。攻守と強打を評価されてきた北條への評価はドラフト1位候補から外れてしまうことになる。

 大谷翔平は初戦のカナダ戦で制球を乱して4回で3失点し降板、その後不安を感じた代表の小倉監督は大事な試合に藤浪を連投させる事となってしまう。5位6位決定戦となった韓国戦で大谷翔平が先発すると155kmを記録して7回2安打12奪三振と、国内のスカウトの信頼を再び取り戻したのだが、それはメジャーリーグのスカウトにも衝撃を与えた。世界の打者と対戦した大谷翔平には、1年生の頃から持っていたもう一つの夢が現実味を帯びてくるのだった。

 続く

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