東京六大学野球春季リーグ戦では19日、今秋ドラフト候補に挙がる早稲田大学のエース・伊藤樹投手(4年=仙台育英)が、明治大を相手にノーヒットノーランを記録した。0-0で迎えた9回に味方がサヨナラ勝ちを収め、1-0という劇的な形で無安打無得点試合を達成。リーグ史上25人目(26度目)となるこの偉業は、リーグ100周年の節目に、令和初、明大相手初、そしてサヨナラ勝利での達成も史上初という記録ずくめの快投となった。
令和初の歴史的快挙、サヨナラノーノーで崖っぷち早大を救う
リーグ2連覇中に早稲田大は、負ければリーグ3連覇の可能性が消滅する崖っぷちの一戦だったが、エース・伊藤樹投手を先発のマウンドに送ると、最高のピッチングを見せた。初回から140キロ台後半の直球を軸に、カーブ、スプリットなど4種類の変化球を低めに集めて明大打線を翻弄すると、5四死球を与えながらも、打者32人を無安打に封じ、11個の三振を奪う圧巻の投球でその力を見せつけた。
最も緊迫した場面は9回2死。明大の5番打者が初球チェンジアップを捉え、左翼へ大飛球を放ったが、左翼手・寺尾拳聖選手(3年)がフェンスに激突しながらもジャンプ一番で好捕。このビッグプレーが、ノーヒットノーランの夢をつないた。その直後の9回裏、その寺尾選手が今度は打撃で、サヨナラ左前適時打を放ち、劇的な勝利で伊藤投手のノーヒットノーランが完成した。
伊藤投手は「人生で初めてのノーヒットノーラン。本当にやってしまったなという感じ」と話し、「フォアボールやデッドボールが重なってしまいましたが、いつも通り丁寧に投げることを最優先した結果だと思います」と振り返った。明治大の戸塚監督も「伊藤君にやられました。変化球を全部低めにコントロールされた。尻上がりに真っすぐの切れが良くなってきた」と完敗を認めた。
名将の薫陶と成長の軌跡!小宮山監督の「ノーノー」アシスト
伊藤投手は、仙台育英高校では須江航監督の下で投手のスキルとセンスを磨き、高校3年夏の敗戦は「実力を出さないといけない時に、実力を出せなかった」という悔しさを糧に、大きく成長を見せた。須江監督もこの日の伊藤投手の投球に、「ちゃんと成長を証明してくれましたね。心から感動しました」と語り、教え子から「パワーをもらった」と刺激を受けた。
早稲田大学進学後は、小宮山悟監督(早大OB、元ロッテ他)から「伝統の一球入魂の精神」と「投手としての帝王学」を学んだ。特に、前カードで負傷した人差し指のマメのケアについても、小宮山監督からの具体的な助言があったといい、これが今回の快投に繋がったと伊藤投手は感謝を述べた。
この日の試合でも小宮山監督が采配でノーノー達成を後押しした。0-0の8回に無死一塁で伊藤投手に打席が回った際も、代打を送らず続投を決断。「野手の監督だと分からないけど、僕はピッチャー。ノーヒットノーランを続けている選手を代えるなんて業を犯してはいけない」と、投手出身ならではの信念でエースを信頼しました。さらに、9回裏の攻撃前には今季初めて円陣に加わり、「サヨナラ勝ちだともれなくノーヒットノーランがついてくる。お前ら、ちゃんとやれ!」とエースのノーヒットノーランの達成のために打者に檄を飛ばした。
プロも熱視線、「勝てる投手」がドラフト上位指名へ
この快投には、ネット裏で視察をした複数球団のプロスカウトも熱い視線を送った。
- 千葉ロッテ・榎康弘アマスカウトディレクター:「勝てる投手。真っすぐ、フォーク、チェンジアップともにコントロールができ、緩急も駆使できる。ゲームメークができ、負けられない試合で結果を残しましたね。視野の広い、賢い投手」
- 横浜DeNA・八馬幹典編成部アマスカウティンググループリーダー:「真っすぐもいいし変化球も多彩。打者の手元で力のあるボールがいく。ドラフト候補の上位12人に入ってくる可能性もある。上位に入ってくるでしょう」
- 横浜DeNA・木塚スカウト:「三沢さんのようなボールを浮かせない力、内を放る勇気がある投手」
- 福岡ソフトバンク・宮田善久スカウト:「左打者へのチェンジアップが絶品ですね」
また他のスカウトからも「ゲームメイク能力が高い」との声が聞かれ、プロも1軍でも「クオリティースタート(6回以上自責3以内)を重ねられる投手」という評価が確立されつつある。
仙台育英の須江監督も、伊藤投手が「ケガにさえ気をつけてもらえば、10年、15年とプロでやれるメンタリティ、スキルをバランスよく持っている。本当に長く活躍したよね、となる選手は樹だと思っている。そういう意味ではドラフト1位にふさわしい選手」と話した。
これで今季4勝目を挙げ、リーグ通算17勝目(現役2番目)とした伊藤投手。今後の活躍に注目が集まる中、「この調子で残りの試合と秋に向かってしっかり投げられたら」と話し、今回のノーヒットノーラン達成を「自信にしたい」と話した。
まずは明治大3戦目に勝利してのリーグ3連覇、そして自身が目指してきたプロの舞台へと視線を上げた。
伊藤樹投手 プロフィール
- 氏名: 伊藤 樹(いとう たつき)
- 生年月日: 2003年8月24日(21歳)
- 出身地: 秋田県美郷町
- 経歴: 仙台育英高校 – 早稲田大学(4年)
- 投打: 右投右打
- 身長・体重: 177cm・84kg
- ポジション: 投手
- 最速: 152キロ
- 主な実績: 東京六大学野球リーグ史上25人目(26度目)のノーヒットノーラン達成(令和初、明大相手初、サヨナラ決着初)、リーグ通算17勝、大学日本代表選出経験、ベストナイン複数回受賞。今秋ドラフト上位候補。








コメント