くじが繋ぐ想い
横浜DeNA、東浜巨投手、22歳、投手、亜細亜大学。今年も1000人の野球ファンを招いてのショーアップされたドラフト会議が始まる。どんな選手でも緊張するというドラフト会議、もちろん指名するプロ側もほぼ全員が緊張していた。
巨人-菅野智之
巨人・原監督の表情は硬かった。予想では単独指名の可能性が高かったものの、昨年、この会場で菅野智之を逃している。しかし、埼玉西武まで菅野智之の名前が出てこない事を確認すると、緊張はほぐれていく。昨年はなかなか席を離れることができなかったが、今年は満面の笑みで記者の待ちうけるインタビュールームへと歩いていった。2年間の想いが繋がった瞬間だった。
東北楽天-森雄大
東北楽天は黄金の左腕で田中将大などを引き当てた島田球団社長兼オーナーが7月いっぱいで退任していたが、新任の立花陽三社長は慶応ラグビー部のコーチをする体育会系でもあり、ゴールドマン・サックス、メリルリンチと渡り歩き、約6000億円の取引を成功させるなど、強運も併せ持つ人だった。そして、東北楽天がドラフト会議直前で1位指名を決めた選手の名前は、東福岡・森雄大だった。
広島-高橋大樹
広島は後に想定内と語ったものの、単独1位指名を狙っての指名重複でやはり慌てていたと思う。立花社長のターゲットは広島・野村監督となった。そして見事に交渉権確定を引き当てた。肩を落とした広島はリリーフに照準を変え、NTT西日本の増田達至を指名するが、こちらも抽選で敗れ、龍谷大平安の高橋大樹を指名した。元々広島は野手の指名を狙い、昨年から高橋大樹も1位候補として追い続けていた。4人の投手がそれ以上の評価になったため、シーズン途中で投手の指名を決めたが、元々の方針に戻った形となった。
福岡ソフトバンク-東浜巨投手
プロ入りを決断した東浜巨投手も緊張していたという。横浜DeNA、福岡ソフトバンク、埼玉西武の3球団が抽選に臨む。沖縄から東京の大学に進学し、東京でプレーを続けたいという思いもあり、しかし、地元九州のチームで故郷に錦を飾るという思いもある。中畑監督、王会長、6球団男の渡辺久信監督の抽選は、王会長の貫禄勝ちだった。決まった瞬間、東浜投手は特に表情を変えなかった。緊張から解放されほっとしていた。
阪神-藤浪晋太郎
阪神は清原和博から始まり、ドラフト1位指名の抽選は12連敗中だった。今年は抽選がある事はわかっていたが、藤浪晋太郎投手指名を表明していたオリックス、東京ヤクルトと他に千葉ロッテも参戦し4球団の指名となった。抽選に臨むのは和田監督、シーズン中は決して強運には見えなかったのだが、見事に抽選の連敗を止める会心の一打を放った。
抽選で引き当てたすぐ後のインタビューは、やはり興奮状態で話す人が多い。6000億円の男・立花社長でも森雄大投手へのメッセージで、おそらく「東北で待っていますので、」の後に「楽しみして、オフを過ごしてください」という所を、「楽しんでこのオフを過ごしてください。」と言ってしまう程なのだが、和田監督は興奮の中でも落ち着いた言葉で藤浪投手について「甲子園が似合うということです」と語った。「甲子園を春夏連覇した大阪の高校のエースが甲子園でプレーする」これだけで地元関西は大いに盛り上がった。来年、先発のコールで藤浪の名前が呼ばれた時、どれだけの盛り上がりを見せるのだろう。
埼玉西武-増田達至、横浜DeNA-白崎浩之
東浜の抽選を外した埼玉西武は涌井を先発にするためのリリーフとして増田達至を抽選で獲得する。横浜DeNAは2位を1番目に指名できる事もあり、1位は投手と決めていたが中畑監督の後輩、駒大・白崎浩之を指名する。広島も含めて、みんな落ち着くところに落ち着くものだ。
千葉ロッテ-松永昂大-松葉貴大-オリックス
因縁を持つ関西の両左腕はドラフトでも因縁を含む。大阪ガスの松永昂大を千葉ロッテとオリックスが指名し、抽選の結果、千葉ロッテが獲得する。そして抽選を外したオリックスが指名したのは大体大・松葉貴大だった。投手を始めるきっかけを与えてくれた松永昂大投手の外れ指名となった松葉、同じパリーグで今度は同年代として、同じドラフト1位左腕として長い戦いが始まる。
北海道日本ハム-大谷翔平
今年注目された3人は、東浜巨投手、藤浪晋太郎、そして大谷翔平だったことは間違いない。そして、メジャー入りを決断した事で大谷翔平の名前はこのドラフト会議の会場では呼ばれないはずだったのだが、北海道日本ハムが宣言通り1位指名、1位の最後に名前が呼ばれた。ドラフト直後は「2年連続」でドラフト1位に穴を空けると思われて、ドラフトが終わっても北海道日本ハムファンには緊張が続いていた。リスクを取って直接メジャー入りを決断した大谷投手に、リスクを取りながら1位指名をした北海道日本ハム。両者の思いは交渉の毎に繋がり始めていくのだった。
不安と喜びのドラフト2位
ドラフト2位指名、1位指名で指名されるかもしれない選手が揃うのだが、選手から見ると、1位指名ではなかったという残念な想いと、それでも2位指名という喜びが混ざり合う順位だ。
横浜DeNAが真っ先に指名したのは1位で狙っていた法大・三嶋一輝。この秋に最も評価を挙げた投手でチームでは2年先輩の加賀美希昇と共にエースをねらえる投手だ。ドラフト前の評価も高く外れ1位までには指名されると思われていたのだが、三嶋は別に気にする風もなく淡々としていた。阪神はもう一人の甲子園の申し子、北條史也を指名して再び阪神ファンを沸かせる。甲子園春夏優勝投手と3大会連続準優勝の4番の獲得だ。北條も甲子園で4本塁打を放った直後はドラフト1位確実の雰囲気だったが18Uで風向きが変わっていた。少し残念そうな顔をした。しかし、地元大阪に帰り、好きだったという阪神でプレーをする喜びがそれを消していった。
東北楽天は20Kの衝撃を与えた則本昂大を指名した。内定をもらっていた日本生命と義理を果たし、堂々のドラフト2位でプロ入りする。一時は藤浪、大谷と並びBIG3と呼ばれていた濱田達郎を中日が予定通り2位で指名する。今年1年間、悩み苦しんだがその分成長するだろう。
そして、埼玉西武は相内誠を指名する。施設で野球で気を紛らわせていた自分を、時には叱って成長させてくれた千葉国際・高瀬監督、二人はがっちりと握手をしたあと、「ただ怒るだけじゃなく、自分の先のことを考えて”野球ができなくなるようなことはするな”と毎日のように言ってくれた。」相内は監督にそう話すと、横でただ涙を浮かべていた監督。二人の思いはプロ入りという形で花開いた。そして夏の大会で敗れた後に話した「プロで活躍する姿を見てもらって恩返ししたい」という言葉を、今度は高瀬監督から離れて、自分一人で実践する時が来た。一人で活躍する姿を見た時、高瀬監督はまた涙するのだろう。
静かになった会場に・・・
横浜DeNAの1位指名・東浜巨投手の名前が呼ばれて、最後に育成ドラフトで福岡ソフトバンクの選択終了の発表が終わるまで、3時間01分だった。この間に70人の名前が呼ばれ、70人の人生を変えていった。しかし、プロ野球志望届けを提出していた高校生は95人、大学生は85人、社会人も数多くの選手がドラフトの指名を待っていたのだろう。監督が去り、球団関係者が去っていき、最後まで見届けたファンも引き上げた。そして静かになったドラフト会場には、早くも来年以降のドラフトへと想いが繋がっていく。
夏の都大会で快進撃を見せた片倉高校の金井貴之、小田嶋冶真人は揃って立正大進学を決める。厳しい東都で2部の環境からスタートし、チームの上昇と共に、4年後に二人揃ってのプロ入りを狙う。社会人の誘いを全て断って臨んだ慶大・阿加多直樹捕手も、日本生命に進み、小林誠司など実力派捕手の揃う環境で2年後のドラフトを目指す。JX-ENEOSの大越基志も「ドラフトでは落ち込んだ」と話したが、その後、行われた日本選手権でチームを優勝させ、都市対抗に続いてのMVPを獲得した。日本代表としてアジア選手権を戦い5戦全勝に貢献をしている。
球団関係者も厳しい交渉を控えている球団もあったが、来年のドラフトに向けてスタートする。また来年もこの会場で数十名の名前がを呼ぶための1年間に渡る長い準備を行う。
ドラフト会議は続く。プロに入りたいという野球選手の想いがある限り。そして、プロへの想いとプロの想いがここで繋がり続ける。
まだ、続く
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