第98回選抜高校野球大会準決勝。智弁学園(奈良)が中京大中京(愛知)との名門対決を2-1の逆転で制し、初優勝を飾った2016年以来、10年ぶり2度目となる決勝進出を決めた。エース左腕の杉本真滉投手(3年)がこの試合を1人で投げぬき、9回、一打同点の危機で強襲打が足を直撃するアクシデントに見舞われながらも、執念でアウトをもぎ取り完投。大会通算防御率0.26という驚異的な安定感を誇る「春のエース」が、近畿勢対決となる決勝の舞台へ王手をかけた。
衝撃のラストプレー「顔に当たっても捕る。死んでもアウトを取る」
エースの気迫が、聖地の空気を震わせた。1点リードの9回裏、2死一、二塁。中京大中京の田中大晴選手が放った鋭いライナーが、マウンド上の杉本真滉投手の左すねを直撃した。あまりの衝撃に足を引きずる素振りを見せたが、杉本投手はすぐさま白球を追い、一塁手の逢坂悠誠選手へトス。ゲームセットの瞬間、マウンド付近に膝をついてしゃがみ込んだ左腕に、スタンドからは万雷の拍手が送られた。
「顔に当たっても止めたる、と思っていた。下級生の逢坂が打ってくれた点を取られるわけにはいかないんで。死んでもアウトを取ると。」
試合後の取材では「当たってやばいかなと思いましたが、立ってみたら大丈夫でした」と笑顔を見せ、打撲すらしていないと強気な姿勢を崩さなかった。味方の逆転を信じ、最後までマウンドを譲らないというエースとしての覚悟が、満身創痍の肉体を突き動かした瞬間だった。
136球目に147キロ、後半にギアを上げる進化
この日の投球内容も、ドラフト候補としての評価をさらに高めるものだった。序盤は直球を狙われ、3回に先制を許す苦しい展開。「勝負は後半。そこでギアを上げる(スポーツニッポン)」というプラン通り、中盤からはカーブやカットボール、チェンジアップを多用して打者の芯を外す投球に切り替えた。4回以降は強力打線をわずか3安打に封じ、スコアボードにゼロを並べ続けた。
圧巻は9回だ。2死から迎えた打者に対し、この日の136球目で自己最速にあと2キロと迫る147キロをマーク。「(捕手の)角谷が『まっすぐ狙われてるから、まっすぐは見せ球でいいくらいの厳しいところに投げていこう』と言ったんで」と、見せ球として強い球を投げ込んだ。昨秋の近畿大会決勝での敗戦を糧に、冬場に1日200球以上の投げ込みを重ねて手に入れた体力が、大一番で結実した。今大会4試合で35イニングを投げ、失点はわずかに2(自責1)。決勝で対戦することになる大阪桐蔭の西谷浩一監督も「びっくりするくらいタフになっている」と舌を巻くほどの圧倒的な支配力だ。
村上頌樹先輩に並ぶ1大会4勝、小坂監督が認める新旧エースの共通点
智弁学園の投手がセンバツで1大会4勝を挙げるのは、2016年に全5試合を完投して優勝投手となった村上頌樹投手(現阪神)以来、史上2人目の快挙だ。小坂将商監督(48)も「杉本は村上とよく似たところがある。トレーニングも孤独に黙々と取り組むところも共通している(スポーツニッポン)」と、二人のストイックな姿勢に太鼓判を押した。
昨秋の敗戦後、閉会式での態度を厳しく叱責された苦い経験もあるが、今は守備陣を信頼し、打たせて取る余裕も見せるエースとなった。
決勝の相手は大阪桐蔭、制限「131球」
決勝の相手は、史上最多10度目の優勝を狙う宿敵・大阪桐蔭に決まった。近畿勢同士、そして大阪と奈良の県境を越えた「阪奈決戦」は、選抜の決勝では史上初めてとなる。気になるのは杉本投手の登板についてだ。準決勝で打球を当てたこともそうだが、「1週間で500球」という球数制限のルールにより、予定通り31日に決勝が行われる場合、杉本投手が投げられるのは残り131球となる。
「あと1個勝つだけ。自分だけでは勝てないので、チーム一丸となって全力でいきたい。」2016年の村上先輩に並ぶ「5戦5勝」での全国制覇へ。あるいは、後輩の投手にバトンを託す継投策となるのか。小坂監督が「僕は明後日、雨が降ることを祈ってます(日刊スポーツ)」と本音を漏らすほどの総力戦が予想されるなか、杉本真滉の左腕が、智弁学園に10年ぶりの栄冠をもたらすための最後のマウンドに向かう。
【杉本 真滉】 プロフィール
- 氏名: 杉本真滉(すぎもと・まひろ)
- 所属: 智弁学園高校(3年)
- 出身: 兵庫県(明石市立野々池中-神戸中央シニア出身)
- ポジション: 投手
- 投打: 左投左打
- 身長・体重: 177cm、86kg
- 主な特徴や実績: 最速149キロを誇るプロ注目左腕。今大会4試合で4勝(3完投1完封)、防御率0.26と圧倒的な成績を残す。準決勝の中京大中京戦では打球直撃の負傷を乗り越え1失点完投。16年の村上頌樹(阪神)を彷彿とさせる、タフさと孤独に打ち勝つ精神力が武器。















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