日本高等学校野球連盟は8月1日、大阪市内で理事会を開き、来春の公式戦から指名打者(DH)制を導入することを全会一致で承認したと発表した。全国レベルでは来春の第98回選抜大会から実施される。選手の出場機会創出や投手の健康対策を目的としたこの歴史的な決定に、仙台育英の須江航監督や東洋大姫路の岡田龍生監督ら、現場の指導者からは歓迎の声が相次いでいる。
「1人でも多くの部員が試合に」出場機会の創出へ
日本高野連の井本亘事務局長は、「1人でも多くの部員が試合に出る機会が創出される。それが一番大きい。打撃が得意な選手がいて、試合に出るところにつながるんじゃないか」と、導入の最大の目的を説明した。
この決定に、現場の指導者たちも期待を寄せる。
花巻東・佐々木洋監督:「1人でも多くの選手を出してあげたい気持ちもあるし、投手の負担も大きい。守備が苦手で打撃が得意など、色々なタイプの選手が出る機会が広がる」
開星・野々村直通監督:「賛成です。バッティングだけ得意な子がいるんですよ。すごい特長じゃないですか。それをDHで見てもらうのは大事だと思いますよ。出番がない子が生きてくる」
京都国際・小牧憲継監督:「英断。本当に素晴らしい取り組みだと思う。野球人口にも関わってくる問題じゃないかなと思います」と、野球界全体の未来を見据えた。
投手の負担軽減、故障予防
DH制導入は、投手の負担軽減や故障予防という観点からも大きなメリットがあり、その観点からコメントをしている監督たち。
健大高崎・青柳博文監督:「一番は投手の故障予防」と断言。自身の現役時代の苦い経験を交えながら、打撃や走塁時の怪我のリスクが減ることを歓迎した。
東洋大姫路・岡田龍生監督:「負担を軽くするにはありがたい。ピッチャーにDHを使うとなれば、全然楽やと思います」
「より面白くなる」戦術・采配について
DH制の導入は、試合の戦術や采配にも大きな影響を与えそうで、その観点からコメントしている監督たち。
仙台育英・須江航監督:「間違いなく高校野球は今より面白くなりますね。DHをどう捉えるかにチームの色が出そうですね。足が抜群な選手や小技が得意な選手を使うこともあるでしょう。DH=強打者である必要はない」
健大高崎・青柳博文監督:「投手の継投策も打順の巡りに関係なく、投球だけを見極めて代え時を探ることになりますね」
失われるものは?
一方で仙台育英の須江監督は「投手が打者を経験して得る、自分が打者だったらどう思うか、というようなマウンド上での駆け引きや、走ることで磨かれる走塁勘。野球=走塁だと思っているので、投手の嗅覚みたいなものは失われるのかもしれません」と話した。
高校野球では俗に言う「4番でエース」という存在も多くあり、そういう選手の打者としての能力を伸ばすことができないというのが、かつてのDH制のデメリットだったが、大谷ルールも適用されるということで、現在の形から制限が増えるわけではないため、ほぼ前向きな形で受け入れられるのだと思う。しかし、監督の方針ですでに投手は投手の練習しかしていない高校もあると聞いており、投手と野手の分業は少なからず進んでいくのではないかと見られる。
他に考えられるデメリットとしては、部員の多いチームと部員の少ないチームの戦力差の拡大ということも無くはない。部員の多いチームのほうが打撃に特化した選手を選んで活用できるため、より強力な打線が組める場合もある。しかし、部員の少ないチームでも、より試合を経験できる選手が増えるので、それほど問題にならないのではないかと思う。ベンチ入り20人の枠を増やすよりも反発は少ないだろう。
少子化、暑さ、高校野球界は変革の時代へ
大学野球ではすでに来春から東京六大学、関西学生リーグもDH制の導入を決め、全連盟で導入されることが決まっており、高校野球もその流れに続く形となった。
DH制導入は、7イニング制の検討などとともに、高校野球が大きな変革期にあることを象徴している。広陵の中井哲之監督は「変革というか、野球がすべて変わっていこうとしている中で、一チームの監督がああだこうだということじゃないと思う。いい方向に高校野球が進んでいくのであれば、それに従うことが教育者だと思う」と、時代の変化を受け入れた。
井本事務局長も「導入した後に現場から出る意見を聞いた上で、高校野球にとってのDH制はこれがゴールなのか。もう少しいろいろ変化していく必要があるのかは議論したい」と、今後も継続して議論していく姿勢を示した。
個人的には高校野球は「夏」を諦めるべきと考えており、現在議論されている7イニング制が、「酷暑」を理由になっているのであれば、大学と同じように春・秋に大会を行う方を優先すべきだと思う。また、少子化による野球部の減少、審判や関係者の不足に対する対策については、連合チームの制度を拡充した上で、地方大会でのトーナメントはやめて、アメリカのようにリーグ戦にするべきと考える。
トーナメントだと公式戦は1試合で終わってしまうチームが約半数ある。野球部は練習試合を組んで試合数は各高校が確保をしていると思うが、やはり公式戦の試合数については、強豪校もそうでない高校ももう少し平等にすべきだと思う。そして連合チームをある程度組織化し、複数の指導者でチームを見ていけるようになったりすれば、チームの質もより高まるし、指導者としても経験を積むことができるのではないかと思う。




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