2016年ドラフト総決算~その7:ゴール~

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いよいよ2016年の戦いへ、そして最終年度に波乱が起こり、混沌のままドラフト会議を迎える。田中正義投手、寺島成輝投手、柳裕也投手などがどのようにしてドラフト1位指名にたどり着いたのか、2016年のドラフトストーリー。

高校の主役の座

投げられる素晴らしい球に期待をされながらも、甲子園に届かない投手がいた。一人は横浜の藤平尚真、もう一人は履正社の寺島成輝である。

藤平は140キロ後半クラスの重い球を投げ、素質はドラフト1位クラスと評価されながらも2年夏でもエースの座を奪う事ができずにいた。しかし2015年秋、神奈川大会決勝の桐光学園戦で藤平は4安打10奪三振で完封し、いよいよ本格化したとスカウトも色めきだつ。しかしこの試合で勝てばセンバツの出場の可能性が高くなる関東大会1回戦の常総学院戦で、藤平は1年生の宮里豊汰に一発を浴び、またしても全国切符を手放してしまう。これで監督の信頼も失い背番号10で翌年春を迎える事になる。残す舞台は夏の甲子園のみとなった藤平は、まずはチームの信頼を得て背番号1を奪う戦いをする事になる。

また履正社の寺島は、秋の大阪大会準決勝で再び大阪桐蔭の壁に阻まれる。先発して2失点完投と好投したものの、同じ2年生左腕の高山優希が1失点完投し、ライバル左腕対決としても負けた。3位決定戦でも敗れた履正社は近畿大会に出場できず、寺島の全国の舞台の残すところは夏の甲子園のみとなった。

完投では花咲徳栄の高橋昂也に投げ勝った早川隆久投手のいる木更津総合が、東海大甲府の菊地大輝、常総学院の鈴木昭汰などを抑えて関東チャンピオンとなっていた。九州では鍛治舎監督が率いて力をつけてきた秀岳館が1番・松尾大河、4番・九鬼隆平を固定して勝ち上がる。北信越からは山崎颯一郎とショートの林中勇輝が注目される敦賀気比も勝ち上がった。

明治神宮大会ではおなじみとなった敦賀気比の山崎颯一郎が好投を見せるも、主役の座を奪うような投球は見せられなかった。その中で可能性を見せたがの東邦の藤嶋健人と大阪桐蔭の高山優希だった。藤嶋は急成長で九州大会を制した秀岳館に9回8安打2失点で完投、しかし注目されたのは投球ではなく、6回と8回に放った2本の2ランホームランで、ともにレフトスタンド中段に飛び込む圧巻の打球だった。これで藤嶋についてプロのスカウトは、野手としての可能性を見て、ドラフト上位候補にランクアップする。しかしプロでも投手を希望したい藤嶋は悩むことになる。

大阪桐蔭の高山優希は大阪大会で寺嶋と投げ合って勝利していたが、130キロ後半の速球をコントロールよく投げる好投手タイプの左腕だった。この大会1回戦でも木更津総合の左腕・早川隆久と投手戦を演じるが、9安打を許しながらも2点に抑える好投で完投を代表する左腕・早川に勝利する。しかし高山が注目されたのはこの投球ではなく、準決勝で6-7で高松商に敗れた試合の9回表の投球だった。8回に6-7と1点差まで迫った大阪桐蔭は9回にエース・高山をマウンドに送る。すると高山は帽子を飛ばす勢いのあるフォームでいつもと違う投球を見せ、150キロ前後を連発する圧巻投球を見せた。1回をパーフェクト2奪三振に抑え、高山の本当の力が垣間見えた投球だった。

高山のこの投球は、本当に高山のためになったかはわからない。この姿を本人もスカウトたちも追い続け、それが負担へとつながっていったのかもしれない。

そしてもう一人、注目すべき投手が登場する。創志学園の高田萌生は練習試合で150キロをマークしたと噂になっていた。その高田は中国大会を投げ切って勝ち上がり、噂ではなく本物であることを証明すると、明治神宮大会でも敦賀気比に敗れたものの、投げ合った山崎颯一郎よりも評価の高い投球を見せた。高田は春のセンバツでも全投手の中で最速となる149キロを記録し、プロのスカウトからは大会NO.1投手と評価される事になる。

2016年センバツ大会

いよいよドラフトイヤーに突入する。センバツではドラフト候補が選別される場になった。常総学院の鈴木は、周りも驚くほどの不調で初戦で姿を消す。大阪桐蔭の高山も土佐戦で8回2安打8奪三振無失点の好投も、秋のあの投球は見せられず、2回戦で木更津総合の早川にリベンジを許してしまう。花咲徳栄の高橋も秀岳館を抑えられずに一歩後退し、敦賀気比の山崎も青森山田を完封し左さすがの投球を見せたが2回戦で敗れ、スカウトが◎をつける所まではいかなかった。東邦も藤嶋も関東一を完封する好投を見せたが、投手としての評価はスカウトによって分かれた。

準々決勝で秀岳館を相手に2失点と好投した早川は、球速などはまだまだも投球内容とコントロールを高く評価された。秀岳館は九鬼選手のリーダーシップと強打が評価される。

いずれにしても高校生の大本命となった候補はおらず、スカウトの目は春季大会と夏の予選に向くことになる。

波乱

大学生では明治大の柳裕也が春のリーグ戦で6勝1敗の成績を挙げ、防御率でも0.87で1位になる。チームも優勝に導き、手が付けられない状態になっていた。このシーズンの投球を見て、柳のドラフト1位指名を決めていた球界関係者がいた。

しかし大学生には大きな波乱が待ち受けていた。東京新リーグではドラフト注目の創価大・田中正義と流通経済大・生田目翼の投げ合いに供え、観客が多く入れる大田スタジアムに場所を変えるなど準備を進めていた。しかし生田目は昨年秋に肘を痛めると春に肩を痛め、春のシーズンの登板を見送る。

そして田中正義にも波乱が襲う。3月の侍ジャパンの候補にも名前が挙がっていた田中は、年末年始も練習を続け、速いピッチで調整を進めていた。しかし調子が上がらずに出場を辞退すると、一度ペースダウンさせ開幕に再び照準を合わせる。しかしこれが良くなかったのか、調子が上がらずに迎えた共栄大戦で田中は途中降板し、肩の故障が発覚する。12球団が1位指名を検討していたプロ球界にこのニュースが駆け巡り、スカウトたちも混乱に陥る。

他にも九産大の高良が故障で投げられず、東海大の丸山や富士大の小野も自分のフォームを見失っていた。大豊作と言われた大学生投手候補の状況が、一変していった。

しかしスカウトたちを救った選手がいる。中京学院大の吉川尚輝は春のリーグ戦で首位打者になる活躍を見せると、大学野球選手権でもチームを優勝に導いた。リーグ戦だけの成績では測るのが難しかった力を、全国の舞台で証明し、1位指名を確定させた。また、白鴎大の大山悠輔と中塚駿太、新潟医療福祉大の笠原祥太郎も活躍を見せた。

大山は春のリーグ戦で8本塁打を放ち、大学生候補に足りなかったスラッガータイプのドラフト上位候補が誕生する。中塚はこの春に157キロを記録すると、先発して5回1失点に抑え4年生にしてリーグ戦初勝利を記録した。これまで力がありながらも発揮できなかったものが開花し、秋は5勝を挙げるのだった。また新潟医療福祉大の笠原は春のリーグ戦で6勝を挙げた。147キロの左腕は入学時とともに創部したチームを3部、2部へと押し上げ、この春、上武大と優勝争いを繰り広げるチームへと導いた。

そして、田中のいない間にもう一人の怪物が台頭した。桜美林大の佐々木千隼は春のリーグ戦で序盤1勝3敗もその後3完封で4勝3敗とすると、秋のリーグ戦でも2試合に完封し、菅野智之が持つ53イニング連続無失点の記録に並んだ。日米大学野球でも1戦目の先発としてアメリカに勝利し、いつのまにか、スカウトの間で田中と佐々木がセットになっていた。

ラストスパート

また高校生の台頭も大学生の波乱を救った。

履正社の寺島は春の大会の大阪大会決勝で、ようやく大阪桐蔭の壁を打ち抜き、近畿大会ではセンバツ覇者の智弁学園を下して優勝する。夏もライバルとして成長したチームメイトの山口裕次郎とともに勝利のみならず失点数でも高い目標を設定し、それをクリアして甲子園出場を決める。また横浜の藤平尚真も最後の夏で甲子園出場を決めた。150キロの速球は迫力を感じさせ、チームの信頼も得ていた。そして甲子園で付ける背番号1を監督から手渡された。

他にも埼玉大会では花咲徳栄の高橋昂也が急成長を見せる。150キロを超す速球と抜群の制球力で無失点を続け、甲子園出場を決めた。巨人・山下スカウト部長が発した「BIG3」の中に高橋投手も加わり、寺島、藤平と肩を並べた。

また東海大市原望洋の島孝明、江陵の古谷優人、九産大九州の梅野雄吾も150キロを超す速球を投げ、高校生候補は最後に大きく活性化する。

そして夏の甲子園ではもう一人、急成長を遂げた。作新学院の今井達也はこれまでドラフト戦線に名前が出てきていない投手である。2年生の夏の練習で150キロを記録し噂になっていたものの、制球の課題もあり公式戦ではほとんど投げなかった。そして栃木大会で150キロの速球を披露すると、そのまま甲子園でも最速152キロの速球を見せ全国を制覇した。BIG3+1、またはBIG4と呼び名に迷うような高校生たちの急成長だった。

ドラフトへ

社会人の候補では山岡泰輔投手が、もう一つの伸びはなかったものの、先発して完封するなど好投を見せ、3年間社会人のトップを駆け抜けた。大阪ガスの酒居はプロに向けて指摘された2段モーションの矯正に取り組むも、これに失敗しフォームを崩し腰や足などを痛めた。しかし秋には投球できるところまで戻していた。

大学生は田中正義が秋のシーズン終盤に以前までとは言わずとも、投げられる姿を見せる。他には創価大の池田隆英、明治大の星知弥といった150キロの球を投げながらも力を見せられなかった選手たちが結果を残すようになり、大学生候補は再び活気を取り戻していく。

そして高校生はU18代表となったBIG4の今井、藤平、寺島、高橋に加え、堀瑞輝、藤嶋健人、早川隆久、島孝明がそれぞれの力を見せた。また、九鬼隆平は捕手としてチームを引っ張り、松尾大河や鈴木将平が主軸として九鬼を支える。見事にアジアチャンピオンとなった高校生が、最後に勢いを見せ10月20日を迎えるのだった。

つづく

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