2013年ドラフト総決算~号砲~

九里亜蓮, 大瀬良大地, 吉田一将, 森友哉, 松井裕樹, 白村明弘

 2013年ドラフト総決算、第8章、いよいよ2013年を迎える。各球団の年始のスカウト会議と共に、スカウトはいっせいに全国へと散らばる。その中で、24年間スカウト活動を続けた名スカウトが、静かに引退を決める。

号砲が打ちあがる

 プロ野球もFAによる移籍や契約更改も落ち着くと、スポーツ新聞各紙は来年に向けての記事を掲載する。その中で、どの球団がどんな選手を狙うのか、そういう情報も頻繁に書かれるようになる。

 まずかかれたのは東京ヤクルト。甲子園のスターを獲得したいと松井裕樹投手をマークしていく方針を明らかにする。直前のドラフトで藤浪晋太郎投手を指名したが獲得できなかった事に対する悔しさと共に、発せられた想いだろう。

 続いて新聞紙の格好のターゲットではる阪神が「虎の恋人」を明らかにする。ドラフト1位で獲得した藤浪晋太郎投手の女房である森友哉捕手の名前が挙がる

 その後、ぞくぞくと各球団の方針が伝えられる。オリックスは、大瀬良大地投手をリストアップし、松井裕樹投手をマーク、横浜DeNAは地元出身の甲子園のスター、松井裕樹投手にスカウト総動員をかける。広島は、大瀬良大地投手と日本生命の小林誠司捕手をリストアップし、さらに森友哉捕手や明治大の岡大海選手をリストアップし、投手と捕手の獲得の方針を示す。福岡ソフトバンクも松井裕樹投手と大瀬良大地投手を1位候補に挙げ、巨人も松井裕樹投手を1位候補にする。

 高校生の松井裕樹投手と森友哉捕手、大学生の大瀬良大地投手に人気が集中していく。ここまで非の打ち所の無い活躍を見せ続ける3人なので、それは当然だろう。また、2013年のドラフトは不作になるかもという不安の声も聞こえてくる。新しい選手がきっと出てくる、毎年そうなる。初詣でそんなお願いをするスカウトもいた事だろう。

 

 そして迎えた信念、仕事始めで役割分担を決めたプロのスカウトは、各地へと飛ぶ。各高校、大学で練習初めが行われ、恒例となっているあいさつ周りをするためだ。今年1年何度も足を運ぶ事になるであろう道を、朝の寒い時間に進む。待ち人に会いに行くために、そして縁がつながることを願って。

  注目の松井裕樹投手のいる桐光学園は1月5日に行われた。坂を上り高台に位置するグラウンドの脇に、東京ヤクルト、巨人、広島、阪神、埼玉西武、福岡ソフトバンク、東北楽天の7球団のスカウトが集まる。同じ関東地区を担当するスカウト同士の年始も行われる。マークを表明していた東京ヤクルトは鳥原チーフスカウトと斉藤スカウトの2人で訪れて熱意を示す。一方、地元としてマークを表明していた横浜DeNAのスカウトは姿を見せなかった。

 森友哉選手のいる大阪桐蔭はその1日前の1月4日に練習初めとなり、阪神、福岡ソフトバンク、東北楽天のスカウト3球団のスカウトが訪れた。

 大瀬良大地投手の九州共立大は、毎年、年始マラソンを行うのが恒例となっている。福岡・宗像市から北九州市内の寮まで全長27kmを走るのだが、主将に任命された大瀬良大地投手は周りを引っ張りながら走っていく。このマラソンには福岡ソフトバンクと千葉ロッテのスカウトが訪れたが、福岡ソフトバンクは担当の福山スカウトがマイカーで大瀬良大地投手を併走して走るという、文字通り密着マークをする徹底ぶりだった。

 他にも、亜大の九里亜蓮投手に4球団、横浜商大の岩貞祐太投手と西宮悠介投手にも福岡ソフトバンクが視察し、阪神も二人をリストアップするという情報が入るなど、一通りの挨拶が行われ、各球団の最初のスカウト会議が行われる。

ドラフト候補初練習、12球団スカウト視察マトリクス

 

各球団の方針

 スカウト会議を最初に行ったのは巨人、早くもドラフト上位候補25人の名前を挙げ、桐光学園・松井裕樹、大阪桐蔭・森友哉、慶大・白村明弘、九共大・大瀬良大地の名前が挙がった。中でも松井裕樹には昨年の夏から常に熱いコメントを出し、さらに捕手の補強をポイントとして森友哉の名前を挙げた。

 中日も白村明弘大瀬良大地九里亜蓮など投手を中心にリストアップをすると、千葉ロッテも松井裕樹森友哉の名前を挙げる。広島は、松井裕樹大瀬良大地白村明弘のほかに、パナソニック・秋吉亮、日本生命・小林誠司の名前も挙げた。阪神も松井裕樹森友哉など上位候補30人をリストアップし、JR東日本の吉田一将と日本生命の小林誠司をそこに加えた。

 東北楽天は2012年のドラフトで地元の大物・大谷翔平選手の獲得を回避し、結果的に指名をしてきた北海道日本ハムが説得して獲得してしまった。昨年末はその話題で持ちきりとなり、非常に悔しい思いをしていた。スカウト会議では松井裕樹を1位にリストアップした。「今年は逃げるまい」、そういう想いがあったのは間違いないだろう。

 大谷翔平を獲得した北海道日本ハムは、スカウト会議で候補者のリストアップをしなかったものの、松井裕樹投手の1位指名が報道される。こうして各球団のリストアップ作業が終わると、世間は高校野球センバツ大会の出場校発表に注目が集まるが、スカウトたちは今度は大学・社会人の練習初めに向けて、再び各地へと飛んでいく。

 

動き

 ここで巨人が動きを見せる。日本生命の視察に巨人と福岡ソフトバンクが姿を見せる。同志社大時代から注目をしていた小林誠司が目的だ。この後、巨人スカウトの目は日本生命に集まっていく事になる。また巨人は、慶應義塾大の練習初めに山下部長を始め4人のスカウトが向かった。目的は白村明弘だ。「順調に行けば1位」と話し熱がこもる。横浜DeNAも2人のスカウトが顔を見せる。それだけ昨年秋のリーグ戦での投球は素晴らしいものだった。「ドラフト1位指名される」事を目標とし公表した白村投手にとっては、まずは順調なスタートだった。

 同じく東京六大学の明治大は春のキャンプをアメリカ・ロサンゼルスで行った。このキャンプで関谷亮太投手などが力をつけ、明大の春秋連覇につながっていくのだが、初練習で4球団が視察に訪れた岡大海は右手の指を骨折してしまう。元々今年は打者一本と決めていたようだが、153km/hを記録した投手としての道はこれで完全に幕を引く事になった。

 注目の左腕2人のいる横浜商大は、横浜DeNAが積極的に仕掛け交流戦を行う。その交流戦で岩貞祐太は初回に2ランを浴びて2失点も、5回を投げて5安打2失点4奪三振とまずまずの投球を見せる。西宮悠介も3回を投げて2安打3奪三振と好投した。この姿を見ていたのは横浜DeNAの関係者だけでなく、阪神、千葉ロッテのスカウトも視察をした。

 また悲しい情報も入ってくる。名門・PL学園が再び部内の暴力が発覚し、春季大会の出場を辞退した。前野幹博中山悠輝というプロ注目のスラッガー候補が居たのだが、プロへの夢が遠のく。そしてその事件の状況が明らかになると、処分は6ヶ月の対外試合禁止という重いものとなり、夏の大会も絶望となる。2年間練習を続けてきた3年生の甲子園への夢は春のうちに消えてしまった。

 

名スカウトの引退

 スカウト活動というものは、暑さ寒さに負けず、体力や忍耐力も必要で、延々と遠い山の中の球場に向かっても、目的だった選手が出場しなかったりと、つらい経験も多い。しかしその分、狙っていた選手をドラフト1位で指名でき、その選手がプロ野球で大活躍をする事で、そんな疲れも吹っ飛んでしまう。そのようなスカウト活動を24年間も続けていた名スカウトが引退を決めた。広島の宮本洋二郎スカウトだ。宮本スカウトといえばPL学園に熱心に足を運び、田中将大投手がいる中で前田健太投手のドラフト1位指名を取り付けて単独で指名することができた。前田投手はいまや日本を代表するエースとなっている。

 足しげく通ったPL学園の出場辞退を聞いて、名スカウトは何を想っただろう。

 

 そして今年もセンバツに向けた練習試合がスタートし、社会人野球のスポニチ大会で球春がスタートする。2007年から追い続けてきたドラフト候補たちの最後の舞台の幕が上がる。


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