2013年ドラフト総決算~主役~

渡邉諒, 森友哉, 松井裕樹, 園部聡, 内田靖人, 田口麗斗, 山岡泰輔, 岩重章仁

 2013年ドラフト総決算、第10章、高校生、大学生、そして社会人の選手が、最後の大舞台に向けて駆け上る。登った先に何があるのかわからない。しかし選手達はただがむしゃらに、挑戦を目指して戦う。

松井にヒートアップ!

 春季大会、初戦を2安打15奪三振で勝ち上がった松井裕樹は、結果的には三振を二桁奪うが投球内容は大きく変わっていた。昨年のように140km/h中盤のストレートと鋭いスライダーの2種類で力で押すのではなく、チェンジアップなど変化球を駆使しての投球スタイルだった。昨年夏に甲子園の終盤まで体力が持たず、それを克服するためにシーズンオフから取り組んでいたスタイルだ。それでも伝家の宝刀スライダーは高校生では打てない鋭さがあり空振りを奪っていた。しかしストレートが高めに浮き連続で四球を与えるような場面もあり、評価は昨年より幅が広がったというものと、昨年のような勢いがやや薄れたというように分かれた。

 対戦相手も何とか一矢を報いようとする。日大藤沢戦では金子一輝が初回にレフトオーバーのタイムリー2ベースを放ち先制点を奪ったが、それからは5回12奪三振、他の試合でも必ず三者三振から入るような凄まじい投球で23イニングで43三振を奪って関東大会出場を決めた。

 関東大会が行われる宇都宮の清原球場には1万人の観客が松井裕樹を一目見ようと詰め掛ける。8回18奪三振と相手を寄せ付け四球から失点をしても三振を奪い続ける。対戦相手はセンバツに出場し、若月健矢、関口明大の花咲徳栄と申し分ない。その試合で若月健矢が2本の外野手の頭を越す2ベースヒットを見せて存在感を見せたものの、松井裕樹は延長12回168球を投げて18奪三振、チームもサヨナラ勝利で実力を見せた。試合には、国内12球団やブレーブス、レンジャーズなどのスカウト44人が集まった。

 続く試合は松井は登板せずチームも敗れたが、チームの状況は悪く無い。今年も甲子園にいけると思えた戦いだった。そして松井投手のいる桐光学園には全国のチームから練習試合や招待試合の申し込みが届いた。松井投手もそのたびに登板を期待され、その期待に応えた。宮崎のMRT招待高校野球では日章学園を相手に8回4安打18奪三振、熊本で行われたRKK招待試合では2日間で連投し4イニングと1イニングを投げ、熊本工戦は1回を三者三振に抑えてみせた。

 そして6月に3度目の九州遠征となる福岡県での招待試合でも5回10奪三振、5回8奪三振と連投して見せた。この練習試合や招待試合の投球にプロ球団もヒートアップする。横浜DeNAがドラフト1位指名を確定させると、広島、阪神、オリックス、巨人、福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、埼玉西武と次々とスカウト会議で松井裕樹投手リストアップの報道が続く。しかし、この福岡の第2戦に5つの四球を出した松井投手には疲れが見えていた。

 

松井が負けた

 ちょうど梅雨の時期に入ることもあり、6月上旬の福岡の遠征から一度ペースを落として、7月の神奈川大会に合わせるというプランだった。松井投手の疲労も計算の内で、連投も耐えられる力を付けた上で体力を蓄える期間に入った。そうして蓄えた力が一気に爆発する。

 夏の大会開幕の1週間前に予定されたのが、センバツで全国制覇をした浦和学院との練習試合だった。松井投手にとっても自分のいない舞台で優勝したチームを相手に力を試したかった。この試合で甲子園で優勝できるかどうか、全国の力が試せると。

 そうして松井は勝った。1安打18奪三振完封という見事な内容だった。松井投手の投球ぶりは王者に手も足も出させない完璧なものだった。しかし、この投球が今年最高の投球となる。

 神奈川大会、2回戦に登板した松井裕樹投手だが何かおかしい。5回に2失点して同点に追いつかれ、再びリードするも2点差の9回に1安打と2四球で1アウト満塁のピンチを招く。なんとか三振とファールフライで抑えたが、思わず「あぶねー」とつぶやいた。

 その後も勝っていくのだが三振を二桁奪うようなピッチングが見られない。そして不安の中で迎えた準々決勝の横浜高校戦、松井裕樹は不調の中でも自己最速となる149km/hを記録し粘りを見せようとしたが、横浜高校の2年生コンビ、高濱祐仁がバックスクリーンに放り込むと、浅間大基がレフトスタンドに運び、松井の夢を打ち砕く。

 中学3年の時に全国制覇を成し遂げた横浜スタジアム、1年前に歓喜の甲子園出場を決めた横浜スタジアムで、松井裕樹投手はただ空を見上げて泣いていた。

 

主役の座を目指して

 松井裕樹に注目が集まる中で、各地で主役の座を目指す選手達がいる。しかし最大限に注目を集める松井裕樹から主役の座を奪い取るには、もう甲子園で優勝するしかない状態になっていた。帝京の石川亮捕手は春季大会で2試合連続アーチを架け、松井から2本の2ベースを放った花咲徳栄・若月健矢も注目をされたものの地方大会で敗れていく。

 2年生で来年の注目投手と目された報徳学園の乾陽平と聖隷クリストファーの鈴木翔太、乾陽平は春季大会で好投し復活かと思われたが、夏の大会で自分のフォームを完全に見失い先発しては1アウトも取れずに舞台から去った。鈴木翔太投手は素晴らしいフォームからの投球をスカウトを魅了する。登板の度にスカウトの数は増し、12球団30人を超すスカウトが詰め掛けた。しかし2年夏を上回る事はできずに敗れる。3年間夢見た甲子園のマウンドに立つことは叶わなかった。

 このほかにも多くの選手の名前が挙げられた。春季大会で完全試合を達成した文徳の本田建都、大型左腕として注目された宮崎日大の甲斐翼なども甲子園の夢を果たせずに敗れ、それぞれの進路を自ら決断していく。その春季九州大会で完封勝利を挙げた鹿児島情報・二木康太や、パワーを見せ付けた鹿児島実・横田慎太郎、2安打16奪三振を記録して注目された平山拳太郎は夏初戦で延長14回を投げたが敗れたもののプロ入りへのきっかけを掴むのだった。

 

憧れの舞台へ

 東海大甲府の渡辺諒は昨年ベスト8に勝ち残ったものの松井裕樹に押さえ込まれて敗れた悔しさを持っていた。その松井裕樹が敗れるニュースを聞き悔しさは残るが、主役の座を奪うために甲子園を目指す。チームには一昨年の高橋周平や昨年の神原友のような存在がおらず、一人で守りの要として、主軸として、そしてリリーフエースとして何役もこなしながら準決勝まで勝ち進む。

 しかしそこで過酷な運命が待っていた。3点リードの7回、1アウト2,3塁の場面で名手・渡辺諒の前に打球が飛ぶ。その打球に打者も諦めた場面だったが、そこでまさかのトンネルをしてしまい1点差とされる。そして続く打者の打球もショートに飛ぶ。今度は捕球をしたものの同点を許さないとダブルプレーを焦りセカンドへ悪送球をして同点とされてしまった。

 同点となった場面で今度はマウンドに登り140km/h中盤の速球を見せるが、四球でランナーを溜めたあとに暴投と捕手への送球ミスで逆転を許して敗れた。試合後に渡辺諒は泣き続けた。こんな日はこれまでも、これからも無いと思う。高校生でトップクラスに入る守備の名手が1日にこれだけの、そして致命的なエラーをする事はないだろう。一人何役もこなして個々まで勝ち上がってきた選手に対して、あまりにも過酷な終わり方だった。

 

 甲子園に後一歩届かなかった選手が多い中で、常総学院・内田靖人はその一歩を自らの手で掴み取った。1試合2本、さらに場外ホームランなどでスカウトたちを驚かせながら決勝に勝ち進むと、決勝の9回裏に大会4号となるホームランをスタンドに放り込みサヨナラで甲子園出場を決めた。

 また中学時代のチームメイト、聖光学院・園部聡も夏の大会初戦の初球をスタンドに運んで通算56号を放つと、続く試合で57号を放って目標としていた大谷翔平の56号を超した。チームも甲子園への切符を手にする。そのほかに、仙台育英の上林誠知は値千金の2試合連続ホームランで出場を決め、北照の吉田雄人なども勝ちあがり、馴染みの顔が揃って行った。

 しかし、広島から新たなスターが現れた。右の山岡泰輔(瀬戸内)と左の田口麗斗(新庄)。二人とも170cm前半と小柄な身長だが共に140km/h中盤の速球と鋭いスライダーを持ち、春季大会は二桁三振を記録して決勝まで勝ち上がる。左腕の田口はいつの間にか東の松井、西の田口と並んで称されるところまで評価を上げていた。

 決勝では先発した山岡泰輔が15奪三振で完封し、途中から登板した田口麗斗に先勝する。夏の大会も二人はそれぞれ勝ちすすむと、再び決勝で対戦する。今度は二人とも先発のマウンドに登ると、15回を投げても0-0が続く。山岡はなんと1安打に抑えて15奪三振、田口は13安打を浴びるも19三振を奪って内容も互角だった。1日あけた再試合、勝敗は山岡に白星が付き甲子園出場を決めたが試合は1-0、共に24回を投げきっての投げ合いだった。過酷な投げ合いだったが二人は笑顔で健闘を讃えあった。

 

主役は誰に

 49代表が出揃った甲子園の舞台、森友哉、近田拓矢の大阪桐蔭も当然のように顔を並べていた。そしていきなり森友哉が見せる。初戦にレフトポール際へ大飛球のホームランを放つと、続く打席は狙い済ましたインコースをフルスイングしてライトスタンドにライナーで叩き込む。2打席連続ホームランだった。

 これに続いて内田靖人も特大のホームランを放つも、森友哉は2試合連続となるホームランを放ち、実力で差を広げていく。北照の吉田雄人は3打数2安打を意地を見せたものの初戦で姿を消すと、園部聡は3大会連続のホームランにはあと数十センチ足りず、山岡泰輔も広島の投げ合いで肘を痛めて敗れた。上林誠知は浦和学院に勝利したもののノーヒットに終わると続く試合も1安打しか打てずに去っていく。

 有田工の古川侑利は初出場のチームの大応援団の期待に応えて大垣日大戦で9回最後に148km/hを記録する力を見せ、日大山形の奥村展征などもホームランや華麗な守備で力を見せ、スカウトに大きなアピールをする。

 大阪桐蔭が明徳義塾にあっさりと敗れ日大山形の快進撃も止まる。最後に残ったのは延岡学園の岩重章仁、1年春の九州大会で2本塁打を放ってから2年、高校3年生で最も長く試合を戦うところまで残ったのだが、主役の座は春に続いて2年生に物になってしまう。前橋育英の高橋光成がヒーローとなり、長い戦いは終わった。

 

 この大会からすぐ、主役を競い合った選手達は一つのチームとして戦う事になる。18Uワールドカップが始まる。


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