2014年ドラフトストーリー ~その9:プロへの階段~

2014年ドラフトニュース

 ドラフトストーリー、その9はいよいよ2014年、好調やケガなどによる不調、成績を残せたか残せなかったか、そしてプロのスカウトの注目・・・。さまざまなものがドラフト候補の心を揺れ動かします。選手の決断は?

春が来ない

 1月、まだ寒い季節に選手たちは練習を開始する。プロのスカウトが1位候補として注目していた12人を挙げてみると、

安楽智大、高橋光成、小島和哉、高濱祐仁、浅間大基、清水優心、有原航平、山崎福也、山崎康晃、石田健大、江越大賀、高木伴、といったところだろうか。しかし、毎年の事だがこの季節の1位候補のうち半分くらいはドラフト会議時には姿を消している。

 右肘痛の安楽智大は当初は3か月くらいノースローを続ければ投げられる状態になるのではという憶測もあったが、1月に入っても3月に入ってもまだ投げられる状態にはならなかった。そして夏の大会で疲労していた高橋光成にもアクシデントが襲い、バント練習で投球を右手に受けて親指の付け根を骨折してしまう。

 3月に入ると練習試合が解禁される。センバツに滑り込みで出場を決めた横浜高校だったが、最後の年を期待されていた高濱祐仁のバットが火を吹かない。ヒットは出ており調子は悪くないものの、少なくとも1本はホームランを打って甲子園入りしたかったのだが、なぜホームランが出ないのかわからないまま甲子園入りをすることとなった。

 そして野球シーズンの最初を担う社会人野球大会のスポニチ大会でも冬は明けなかった。NTT東日本の高木伴が初戦に先発したものの2回に3失点など早々に降板、3回2/3を投げて4安打3奪三振3失点という内容だった。続く東芝戦では1回を無失点に抑え147km/hを記録したものの、視察した11球団20人のスカウトからは、「寒かったから仕方がない」といったような声が聞かれ、次の機会に持ち越しという内容だった。

 

春が来る

 春がきた選手もいる、温かいロサンゼルスの地でキャンプを張った早稲田大、ドラフト1位候補として注目されていた有原航平投手は、現地強豪・南カリフォルニア大を相手に151km/hの速球で3回1安打5奪三振、続くUCLAとの試合では3回をノーヒット3奪三振、最速は156km/hを記録した。現地で視察をしていたメジャーリーグのスカウトは有原投手を大絶賛し、帰国後に巨人や地元広島などのスカウトが集結する。有原投手は今年の本命に浮上した瞬間だった。

 またスポニチ大会では日本製紙石巻の伊東亮大選手が2試合連続ホームランを放つ。プロでは前年にプロ入りしていた千葉ロッテの井上晴哉選手や埼玉西武の山川穂高といった大型の選手がキャンプやオープン戦で話題を振りまき、194cmの伊東選手にも期待が集まった。

 

本命無き

 2014年のセンバツは「本命がいない大会」といった、出場する選手やチームには失礼な表現も聞こえていた。前年のセンバツで活躍した浦和学院の小島和哉、済美の安楽智大の姿は無く、夏のエースだった高橋光成も出場していなかったためだろう。しかし、コアな高校野球ファンやプロのスカウトは、もう十分すぎるほど見ていて故障が心配なその3人に代わって注目すべき選手を挙げていた。

 佐野日大の田嶋大樹、智弁学園の岡本和真、そして横浜高校の浅間大基。また明治神宮大会で2本のホームランを放っていた日本文理の飯塚悟史や優勝した沖縄尚学の山城大智、そして3度目の甲子園となる明徳義塾の岸潤一郎、スカウトにとってこれらの選手を評価する重要な大会となった。

 まず田嶋がベールを脱ぐ。鎮西戦に先発すると9回5安打12奪三振、無四球で完封と特上のピッチングを見せた。144km/hの速球は威力十分でプロのスカウトも評価もウナギのぼりとなる。次に岡本和真が爆発する。三重高校戦で1試合2本のホームランを放った。2年で40本以上のホームランを放った岡本の実力は「本物」と認められた。

 横浜高校は浅間大基、高濱祐仁が2安打を記録するが、二人に求められるものは違っている。浅間は2安打を評価されたが高濱はホームランが出ずに岡本と比較された。

 2回戦で岡本和真に試練が訪れる。左投手とはいえ大会NO1の田嶋と早くも激突する。田嶋の外角の変化球とストレートに翻弄され2つの三振を奪われる。第4打席でヒットを記録したものの、岡本の評価は持ち越しとなった。田嶋はベスト4まで勝ち上がり世間の話題となったものの、準決勝では既に田嶋の投球ではなく、見ているファンには、昨年の安楽や高橋光成の姿が思い出された。

 この大会では他にも豊川の田中空良投手、龍谷大平安の徳本健太朗選手などがプロのスカウトの目に留った。

 そしてプロのスカウトは選手の評価を下す。東京ヤクルトは岡本和真を高く評価、また巨人は浅間大基を高校生トップの評価を下し、1位候補にも名前を挙げた。

 

5月の憂鬱

 センバツが終わり、ようやく安楽智大が投げた。4月6日の開星との練習試合、9回2アウトから登板し四球とヒットでサヨナラで敗れる。安楽は復帰の目標をゴールデンウイーク明けとしていたが、上甲監督は「私が投げさせた」と早期に投げる事を促していた。思うと故障以降、上甲監督と安楽投手の間にややズレがあったように見える。

 18Uで森友哉の配球で世界一のピッチングを見せ、投球術で幅を広げようとした安楽、高校最速の160km/hを目指してほしい上甲監督、そして安楽は自分の考えを通し、夏にぶっつけ本番の復活を目指し調整をしていく。しかしそれは上甲監督と入学時に約束した「160km/h」、「夏の甲子園優勝」、「ドラフト1位でプロ入り」のうち、ケガによって160km/hは難しいように思えた事から、2つ目の約束を果たすための決断だった。

 高校野球の関東大会、横浜高校が初戦でコールド負けを喫した。高濱の調子は上がらないながらも実力で神奈川で優勝を収めたが、期待されたチームにはならない。名コーチ小倉はこのチームを最後に勇退することを決め、最後の夏に全力を燃やす。また東海大相模も夏に向けて期待をしている佐藤雄偉知を成長させるため、東海大浦安に2-7と敗れたものの投げ続けさせた。

 群馬の前橋育英は県大会で高橋光成は登板せずに敗退した。東海大相模・佐藤雄偉知とともに先発した練習試合には15人のスカウトが集まるも5回13安打5失点、最速も141km/h止まり、佐藤も5回11安打3四死球と結果を残せず、スカウトの評価は厳しいものとなった。佐藤も青島凌也とのエース争いにピリオドが打たれ、2年生の吉田凌、小笠原慎之介も加えた140km/hカルテットの中でも一番下に順位を落とす。この時期にプロ入りを決断していた佐藤にとっては憂鬱な時期が続く。

また佐野日大の田嶋は栃木大会でも好投を見せ関東大会出場を決めたものの、関東大会では疲れもありリリーフのみでの登板となった。田嶋は夏の栃木大会で途中で降板してプロ入りを断念、社会人入りを選択する事になる。

 

 大学野球のシーズンも始まる。そして期待された左腕投手が苦しみを見せた。中央大の島袋洋奨は最後の年の活躍を期待されたものの、キャンプから様子がおかしい。東都リーグの開幕戦で王者亜細亜大とのカードが決まり、山崎康晃との投げ合いも期待されたが、監督も島袋の登板をぼやかす。結局開幕戦で島袋は登板せずに迎えた2戦目、島袋は1回1/3を投げて6つの四死球を出す。バックネットにダイレクトで投球を当てるなど昨秋終盤の状態からさらに深刻な事態となっていた。140km/h後半の速球は記録するもどこに行くのかわからない、それでもプロは見守るという姿勢を示した。

 山崎康晃も14球団55人のスカウトが詰めかけるなど注目度が高く、3連勝連続完投に完封も見せるなど、エースとしての成績は残した。しかし昨年秋のリリーフで見せたような力強いストレートを軸としたものではなく、スライダーやナックルといった変化球を駆使したピッチングとなっていた。スカウト陣は東浜巨投手が大学4年時にこのような投球となり、プロでも苦しんでいる姿を思い浮かべていた。東都6連覇という偉業を達成したものの大学野球選手権では創価大の2年生・田中正義のピッチングに圧倒されてしまう。

 東京六大学でもドラフト1位候補に挙げられていた明大・山崎福也と法大・石田健大の成長に期待されたものの、山崎福也は伸びを見せず、石田はドラフト上位の投手の投球では無くなっていた。1位競合も考えられた山崎福也の声は次第に小さくなり、石田を地元のドラフト1位候補として挙げていた広島からもその後、石田の声は聞かれなくなった。

 国立大出身の投手も注目された。京都大・田中英祐は同志社大戦で勝利して勝ち点を奪う事に貢献していた。9球団のスカウトが京都大の試合に足を運ぶなど注目度が高い中で、力を維持し続けた。しかし、スカウトは進路についてやきもきしていた。京都大工学部という事もあり、ビジネスの面でも工学の面でも将来があった。果たして野球の道を選ぶのだろうか。スカウトはその決断を待ったが、田中の決断は夏を越す事になる。

 同じく注目されたのが名古屋大の七原優介、愛知リーグ2部ながら152km/hの速球を投げ注目されていた。ドラフト1位候補の声も聞こえる中で七原は、野球の道を選択したものの、プロでの実力はまだ無いと判断し、早々とトヨタ自動車入りをきめてしまう。スカウトによっても憂慮が続いていた。

 

新芽

 しかし、日本の野球の層は厚い。期待された選手の成長が見られなかったのは衝撃が大きかったが、新たな力が芽を出す。九州では昨秋に148km/hを出した西日本短大付の小野郁が150km/hの大台に乗せると、続くように大分の佐野皓大も150km/hを記録、さらに多良木の善武士投手も149km/hを記録した。大学でも九産大の浜田智博も130km/hの軟投左腕だが5勝0敗で力を示した。

 北の地では岩手の松本裕樹も150km/hの大台に乗せてドラフト1位候補に強く名乗りを挙げる。北陸からも星稜の岩下大輝、日本文理の飯塚悟史、富山国際大付・西田大起、そして富山商の森田駿哉が好投を見せる。森田は最後の新星として注目されることになる。

 関東でも次々と新たな候補が登場する。島根智翠館出身の日大・戸根千明が東都2部ながらも注目を集める。巨人は5人で視察し獲得の本気度を示していた。また国学院大の田中大輝が台頭し4勝1敗、防御率1.11でリーグ2位、ベストナインのタイトルを獲得した。関甲新でもルシアノフェルナンドが春6号となるホームランを飛ばす。大学屈指のスラッガーとして名乗りを挙げた。

 社会人では新日鐵住金かずさマジックの加藤貴之が力を見せ続け都市対抗出場を決める。また三菱日立パワーシステムズは期待の右腕・野村亮介と150km/h左腕・福地元春が力を見せていた。第1代表決定戦では野村亮介先発し7回まで無失点と好投、その試合を落としたものの、第2代表で都市対抗出場を決めた。一方、新日鐵住金鹿島は、横山雄哉、石崎剛の2枚看板が期待されたものの都市対抗出場を逃す。チームメンバーは北関東の各チームの補強選手として次々と選出され、横山は全足利、石崎は富士重工の補強選手となり、複雑な思いを持ちながらも都市対抗での投球に臨む。

 

一人勝ち

 春の戦いでプロのスカウトは早大の有原航平を「一人勝ち」と評した。有原は150km/h近くの速球を投げ続け、法大の石田、明大の山崎などを圧倒する。5勝1敗、防御率1.38、成績と共に馬力のある体の投球に、多くの球団がNO1の評価を付けた。

 大学生投手、そして高校生投手がの不調が続き、スカウトは有原に注目が集まる。豊作とみられていたドラフト戦線もやや不作という声も出始める中で、最後の望みをかけた夏の戦いへと進む。

 

つづく

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