28年ぶりの夏制覇を目指した横浜(神奈川)が、準決勝で姿を消した。最速157キロを誇る今秋ドラフト1位候補、織田翔希投手(3年)が智弁和歌山戦に先発したが、2回1/3を8安打4失点でKO。1―7で敗れ、松坂大輔を擁して春夏連覇を遂げた1998年以来の頂点には届かなかった。試合後に本人からは明言は無かったものの、村田監督はメジャーも視野に入れている事を明らかにした。
甲子園15戦目で初被弾、170キロマシン対策の前に散る
甲子園を支配してきた右腕が捕まった。初回に味方の援護で1点を先制してもらいながら、2回まではピンチをしのいだものの、3回に先頭からの3連打で同点とされ、なおも無死二、三塁。5番の楠本龍生選手に投じた2ボールからの152キロを完璧に運ばれた。これが今夏の織田投手にとって地方大会も含めて初被弾となる3ランだった。1死を奪った後、遊撃内野安打で走者を背負ったところで交代を告げられ、2回1/3で56球、8安打4失点。9回123球で完封した準々決勝から中1日での登板で、この日の最速は154キロだった。
2番手には2年生左腕の小林鉄三郎投手が上がり、6回まで無失点で踏ん張ったが、7回に3失点。智弁和歌山の170キロ超に設定した打撃マシンによる対策と、詳細なデータ収集の前に、世代ナンバーワン投手が屈した。
織田投手は「どんな球にもしっかり合わせてきて、高めに浮いた球は外野に運ばれた。流れのまま1本打たれてしまった。疲れどうこうじゃなくて気持ちの問題だと思います」(中日スポーツ)。ふがいなさを募らせながらも、降板後はベンチの最前列に立ち、「自分が落ちていてはダメ。チームのみんなに鼓舞されて気づかされた。次は自分が助けよう」と、声の限り味方を鼓舞し続けた。
「この試合は絶対に忘れない」涙の中でも貫いたエースの振る舞い
試合終了のサイレンが鳴っても、織田投手は最後まで“横浜のエース”の振る舞いを貫いた。涙に暮れる主将の小野舜友内野手、バッテリーを組んだ脇山魁音捕手(2年)、小林投手の肩を抱き、「ありがとう」と声をかけた。泣き崩れる2年生捕手には特に思いを寄せた。「今日打たれたのも、いいところで配球してくれたけど自分が力んでしまった。脇山投手には『自分のせいで負けた』と思わないでほしい」と、後輩をかばった。
敗戦後の言葉には、後悔よりも感謝がにじんだ。「負けた瞬間は一番に、スタンドで応援してくれている仲間の顔が浮かんで、本当に申し訳ないという気持ちが大きかった。それでもこのチームのエースとしてマウンドで投げることができて、本当に楽しかった」と振り返り、「この試合は絶対に忘れない。高校野球の3年間は、これから先の人生ですごく必要なところ。財産になる」と語った。今大会は1回戦の沖縄尚学戦で8回2/3を2失点で好左腕・末吉良丞投手に投げ勝ち、2回戦では救援で甲子園史上最速の156キロを計測。花巻東との準々決勝では156キロを7度計測する完封劇を演じた。頂点には届かなかったが、ドラフト1位候補にふさわしい投球を残してきた。
17日に亡くなった元監督の渡辺元智さん(享年81)への“弔いV”は届けられなかった。松坂大輔を擁して98年に春夏連覇へ導いた名将に、優勝を報告することはできなかった。「勝って恩返しすることが一番だと思っていたけど、たくさん教えていただいて、すごく幸せな時間でした。まだ野球人生が終わるわけではないので、成長した姿を見せられるように頑張りたい」と前を向いた。村田浩明監督(40)もまた「渡辺監督さんが『そんな甘くねえぞ』というメッセージをくれているのかなと思う。この負けからはい上がっていくのが、横浜高校の歴史と伝統」と受け止め、恩師の遺志の継承を誓った。
日米争奪戦の様相、契約金は「4億円」の見立ても
進路をめぐる新たな戦いのスタートとなる。試合後、織田投手自身は進路について「今は何も考えられない」と明言を避けたが、村田監督はNPBだけでなく米大リーグ挑戦も選択肢に入れていることを明かした。「アメリカも日本も視野に入れて、しっかり考えたい。大会が落ち着いたので、これから相談する」。逸材への評価は、日米の球団関係者から最上級の言葉が並んだ。まずNPB各球団の首脳が、その完成度をたたえた。
東北楽天・石井一久GM:「(スカウトが)10人いたら10人がトップ評価する選手ですよね。ドラフト指名候補のリストにいないチームはないでしょう」
千葉ロッテ・榎康弘アマスカウトディレクター:「やはりスピードボールが魅力。体のしなり、制球、変化球も全てすごい。高校生で石垣元気選手と同じぐらいのレベルだと思う」
メジャー球団の視線も熱い。1回戦の沖縄尚学戦にはNPB全12球団に加え、ドジャース、ヤンキース、メッツ、パドレスなど日米16球団のスカウトが集結した。
メッツ・ジェームズ・カン国際スカウト部長:「日本の高校年代の選手ではトップの選手であることは間違いないが、特に身体能力の高さはアメリカの同世代の選手たちと引けを取らない」
準決勝の視察でも、ネット裏の米スカウトが「他のどの球団も注目しているように能力は高い。あとは本人がどういう選択をするか」と話し、別のスカウトも「高い出力で連投できる点で高校時代の佐々木朗希より上」と評価、高卒メジャー挑戦なら「契約金は200万ドル(約3億1600万円)から250万ドル(約4億円)を用意する球団もある」と見立てを述べた
NPBの契約金は1位でも1億円プラス出来高が上限で、金銭面の差は大きい。米挑戦を選べば、2025年に契約金約2億3600万円でアスレチックス入りした森井翔太郎(桐朋)や、2008年に約1億6600万円でレッドソックス入りした田澤純一投手(ENEOS)らを上回る、日本アマチュア球界の史上最高契約金で海を渡る可能性がある。
一方、メジャーの動きを警戒する声もNPB側からは漏れる。あるNPB球団の幹部は「当然1位の評価だが、メジャーに行きそうなんだよな…。去年の神奈川大会から何球団も張り付きで見ている」と話し、別のNPB球団の幹部も「プロの方から何とかしてという人もいるけど、それは高野連が制限を設けるなり、何とかしてもらいたい」と話し、別の球団関係者は「『織田ルール』みたいなのができるんじゃないか」と、もし、織田選手がメジャー入りをした場合の影響について話した。
今後について
織田投手は9月7日開幕のU18アジア選手権での高校日本代表選出も確実と見られ、「野球人生が終わるわけではないので、成長した姿を見せられるように頑張りたい」。と話した。また10月の国民スポーツ大会にも横浜高校の出場が決定している。
一方でプロ志望届の提出がスタートし、直接プロ側との面談ができるようになる。MLB球団は金額の提示もしてくるのに対し、日本の球団はたとえドラフト1位指名だったとしても上限が決まっており、また1位指名の確約もできない状態で交渉を行う事になる。
ただし、プロ志望届を提出している以上、織田投手がメジャー入りの宣言をしたとしても、ドラフト会議で指名することができる。昨年も佐々木麟太郎選手に横浜DeNAと福岡ソフトバンクが指名したように、織田投手を今年のナンバーワンと評価した場合には1位指名をしてくる球団が出てくるだろう。その場合、大谷翔平投手の時のように、ドラフト指名後に交渉権を持った球団との面談が行われ、そこでその球団かメジャーかの決断をあらためて織田投手側が行う事になる。
【織田 翔希】 プロフィール
- 氏名:織田翔希(おだ・しょうき)
- 所属:横浜高校(3年)
- 出身:福岡県北九州市(足立小1年で野球を始め、足立中では軟式野球部)
- ポジション:投手
- 投打:右投右打
- 身長・体重:186cm、81kg
- 主な特徴や実績:2年春から4季連続で甲子園のマウンドに立った今秋ドラフト1位候補の右腕。最速157キロを誇り、今夏の甲子園では大会史上最速となる156キロを計8度計測した。しなやかな立ち姿から力みなく投げ込む直球に、キレのある変化球を織り交ぜる。甲子園通算9勝は横浜の投手では松坂大輔氏に次ぐ単独2位。NPBドラフト1位指名が濃厚とされる一方、米大リーグ挑戦も視野に入れ、日米が注目する存在として次のステージでのさらなる飛躍が期待される。

















コメント