令和8年熊本地震に見舞われた故郷に勇気を届けるため、春夏通じて初出場の有明(熊本)のエース左腕・斉藤遼汰郎投手(3年)が、甲子園のマウンドで投げ抜いた。8月18日の準々決勝で強豪・健大高崎(群馬)と対戦した有明は、9回まで両軍無得点の緊迫した投手戦の末、延長10回タイブレークで1―0のサヨナラ負け。129球を投げ切った背番号1に涙はなく、「悔いなく、とても楽しい、いい夏にできた」と胸を張った。ダブルエースの一角・工修哉投手が骨折で登板を回避する中、2試合連続の完投で戦い抜いた。
ダブルエースの重責を一人で背負い、粘りの投球でゼロを刻む
有明は工修哉投手(3年)と斉藤投手による“斉藤工”のダブル左腕エースを軸に戦ってきた。だが工投手は16日の東日本国際大昌平(福島)との3回戦の試合前練習で、他の選手が振っていたバットが利き手の左手に当たって負傷。試合後に左手の甲の骨折(全治1〜2カ月)と診断され、今大会での登板は絶望的となった。それを受けた斉藤投手は3回戦を1失点完投で乗り切り、この日も中1日で2試合連続の先発マウンドに立った。
「一人で投げ切る」と覚悟を決めた斉藤投手は、序盤からテンポ良くアウトを重ねた。130キロ台の直球に、低めへ落ちるチェンジアップやスプリットなどの変化球を駆使。内角を突く直球も交え、健大高崎打線にあと一本を許さない。「疲れはなかった」という言葉通り、両軍無得点の5回は2死三塁のピンチを中飛に打ち取って切り抜けるなど、堅守にも支えられてスコアボードに0を刻み続けた。
9回2死満塁、笑顔で見逃し三振に斬る
迎えた9回裏は2死満塁と一打サヨナラのピンチを背負った。それでも斉藤投手は笑っていた。ベンチからは工投手が2度、伝令で「落ち着いて楽しく笑顔で」と声をかけ、「三振取ったろ!」と自らを奮い立たせる。最後は134キロの直球で見逃し三振に仕留め、割れんばかりの拍手を浴びた。
持ち味の機動力も発揮していた。永田晴輝内野手(3年)が初回に中前打で出塁し、二盗と三盗を決めて2死三塁の好機をつくった。得点にはつながらなかったが、有明らしい積極的な走塁で相手を揺さぶった。だが打線は7回に2本の安打と四球で2死満塁の好機をつくりながら二ゴロに倒れるなど、援護の1点が遠かった。
ビデオ検証も覆らず、旋風は止まる
援護のないまま突入した延長10回タイブレーク。先攻の有明は無死一、二塁から送りバントで1死二、三塁としたが、2つの二ゴロに倒れて無得点に終わった。その裏、健大高崎も1死二、三塁とすると、二塁への内野安打で三塁走者が本塁へ突入。永田内野手が好捕してバックホームし、ヘッドスライディングとの際どいクロスプレーとなった。判定はセーフ。有明側はビデオ検証を要求したが、判定は覆らず、旋風を起こしてきた夏が幕を閉じた。
マウンドに立ち尽くした斉藤投手の胸には「終わってしまったな…」という思いがわき上がった。高見一茂監督(46)は「すごくいいゲームができたんじゃないかなと思います」と選手をねぎらい、実田主将も「自分たちはやり切ったと思うので、胸を張って帰りたい」と語った。
胸を張って熊本へ
敗戦の整列後、斉藤投手は空を見上げたが、気持ちは晴れやかだった。練習がきつくてやめたいと思ったこともあった。それでも「エースになって甲子園に行きたい」という強い思いがナインを大舞台へと導いた。「初出場でここまでこれて、とても楽しくて、ずっと笑顔でプレーできた」。骨折した工投手と共に、目標に掲げたベスト8入りという大きな足跡を残し、胸を張って熊本へ帰る。
【斉藤 遼汰郎】 プロフィール
- 氏名:斉藤遼汰郎
- 所属:有明高校(3年)
- ポジション:投手
- 投打:左投
- 主な特徴や実績:春夏通じて初出場となった有明のエース左腕。130キロ台の直球に、低めへ落ちるチェンジアップやスプリットなどの変化球を交えた粘りの投球が持ち味で、ピンチでも笑顔を絶やさない強心臓が光る。相棒・工修哉投手とのダブルエースの一角を担い、工投手が骨折で登板できなくなった3回戦と準々決勝を一人で投げ抜いた。健大高崎との準々決勝では129球で9回を投げ、延長10回タイブレークまで力投。目標のベスト8入りを果たし、被災地・熊本に勇気を届けた。
















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