2013年ドラフト総決算~決断~

九里亜蓮, 浦野博司, 大瀬良大地, 岩貞祐太, 吉田一将, 石川歩, 森友哉, 岡大海, 嶺井博希, 松井裕樹, 園部聡, 杉浦稔大, 内田靖人, 柿田裕太

 2013年ドラフト総決算・第12章、物語は最後に近づく。高校、大学、社会人の最大の大会が終わり、多くの選手はこれからの事を考え、そして進路を決めていく。ただ、ごくわずかの選手がJAPANという文字の入ったユニフォームを着て、世界を相手に戦いの延長戦を繰り広げる。それは最も輝いた選手による、最高の戦いだった。

世界を相手に

大学生、代表合宿の選考

 大学生の場合、大学野球選手権後に代表候補が召集されて合宿を行い、そこで行われる紅白戦の内容も評価された上で代表が決定する。この紅白戦は、ドラフト候補を追うプロのスカウトにとっても絶好の選手を視察するチャンスとなり、多くのスカウトが訪れる。選手はもちろん日本代表のユニフォームを着る事を目標にするが、特に地方の大学生ドラフト候補にとっては、スカウトにアピールする絶好のチャンスだ。

 今年も紅白戦で地方の逸材が活躍を見せる。山梨学院大・高梨裕稔は、福岡大の梅野隆太郎から三振を奪うなど2回を2三振無失点に抑える。横浜商大の岩貞祐太も2回を投げてノーヒット、2奪三振1四死球に抑える。スカウトたちのリストにある高梨と岩貞の名前の横に印が付けられ、ドラフト会議までの間に何度か見に行ってみようという選手に入れられていく。

 しかし選考は地方の選手にとって厳しいものとなる。監督を務める明治大・善波監督にとっては、短い期間で見た選手よりも、やはりリーグ戦で何度も見ている選手の方を信用してしまう。紅白戦では明大の関谷亮太や亜大の九里亜蓮、国学大の杉浦稔大などが登板し、関谷亮太は春の勢いそのままに好投を見せるが、杉浦は抑えたものの四球などでピンチを招き、九里に関しては江越大賀に3ランホームランを浴びるなど2回で5失点し、散々なピッチングとなる。しかし、杉浦稔大はリーグ戦の成績などが評価されて選出され、高梨裕稔、岩貞祐太はメンバーから漏れ、悔しい思いをした。九里亜蓮は紅白戦の結果が悪く、メンバーから漏れてしまう。

 また、大学NO1と評価されていた九州共立大の大瀬良大地も2回で1失点だったが、見方のエラーによるものであり、善波監督の中ではエースは大瀬良と決めていたようだ。

 打者でも厳しい選考が進んでいた。立正大の吉田裕太は2年生の時に後半は正捕手として活躍した経験もあり、自信を持って臨んでいた。紅白戦でもホームランを放ち代表確実かと思われたが、メンバーから外れてしまう。捕手では梅野隆太郎や嶺井博希が選ばれた。さらに2年生の時に主軸を打った山川穂高もメンバーから外れた。代表には明大の岡大海や、法大の河合完治、西浦直亨、大城戸匠理が入り、また大学野球選手権で活躍した三木亮も選出された。このメンバーでアメリカとの対戦に臨む。

 

日米大学野球

 日米大学野球、日本はアメリカに3勝2敗で勝ち越し勝利する。しかし、冷や汗物の勝利といわざるを得なかった。1戦目に先発したエースの大瀬良大地は、ストレートは140km/h中盤を記録しコントロールも序盤は狙ったところに決まっていた。さすがに相手もメジャー予備軍だけあり楽に抑えられたわけでは無いが、5回まで無失点とさすがのピッチングを見せた。しかし5回途中に雨が強くなって49分間の中断が入ると、6回に大瀬良大地は制球が効かなくなり4失点してしまう。その後はやや不安のあった杉浦稔大も登板したが2回を投げて3安打2失点と良くない。結局3-6でエースの投げる初戦を落としてしまう。

 第2戦は山崎福也、山崎康晃の3年生リレーで勝利すると、第3戦は関谷亮太が先発し6回1/3で11三振を奪う勢いのある投球を見せた。この時点で王手をかけたのだが、第4戦、先発を任せた杉浦稔大が初回につかまり4安打4失点で1回途中でノックアウトをされてしまう。リリーフで登板した大瀬良大地も1回を投げて無失点も2四死球を与えるなど調子は戻らなかった。

 第5戦は好調だった山崎福也、関谷亮太、山崎康晃の3人を投入し勝利を納めた。梅野隆太郎がバックスクリーンにホームランを叩き込み試合を決めた。この試合でちょっとした波乱が起きる。今大会、岡大海はライトで出場して大暴投したかと思えば、内野ゴロに全力疾走でヒットにしたり、ヒットで果敢な走塁で2塁を陥れたりと目立っていた。この日は4回に死球を受けるとヘルメットを叩きつける。これがアメリカベンチに火をつけ、両チームの選手やコーチが出てくる前代未聞の日米野球でのあわや乱闘騒ぎとなってしまう。岡は試合後に涙を流して反省していた。

 ショートは三木亮と西浦直亨の二人が争う。序盤は三木がスタメンで出場し、後半は西浦がスタメンとして活躍した。また、河合完治は3番打者として抜群のバットコントロールを見せて評価を上げた。その中で善波監督が絶賛したのは嶺井博希だった。優勝監督インタビューでも、嶺井の名前を何度も口にして「良くリードしてくれた」と話した。エースと見ていた二人が崩れる中で、何とか物にした勝利だった。

 

因縁の18Uワールドカップ

 高校生の代表は18Uワールドカップに臨む。代表監督の大阪桐蔭・西谷監督などが、春、夏の甲子園で活躍したメンバーを中心に選考を行う。森友哉、内田靖人、園部聡、吉田雄人、上林誠知など甲子園の常連組の他に、若月健矢、日大山形の奥村展征や2年生の安楽智大、高橋光成などが加わる。さらに今年は甲子園に出場できなかったものの、昨年までの実績が評価され、NO1投手の松井裕樹とNO1内野手の渡辺諒が選出された。また、広島で熱投を見せた山岡泰輔、田口麗斗の二人も加わる。注目の2年生コンビや、西の田口・東の松井、と呼ばれた二人も加わり、話題の多いチームとなった。

 打者はこの大会は始めて木製バットで公式戦を戦う事になる。大会後に練習をしていたとはいえ、慣れていないため苦労するはずだった。しかし、大学1・2年生との練習試合ではポンポンと打球を飛ばして圧勝する。高校代表史上屈指の破壊力が期待される打線となった。この中で一人、昨年の大会にも出場していた森友哉は、アメリカ戦でタックルを受けて潰され、順位決定戦でも韓国に敗れて6位に終わった悔しさを味わっており、目の色は違っていた。

 

 

いざ戦いへ

 台風の影響で2日間スライドして始まった開幕戦の台湾戦、西谷監督は松井裕樹をエースに指名して先発させた。その松井裕樹、試合は7月の神奈川大会準々決勝以来、1ヶ月以上も試合から離れていた。7月に敗れた後は、他の3年生はユニフォームを脱ぎ、大学のセレクションに向かったり受験に取り組んだり、既にそれぞれの道を進み始めていた。練習試合が組まれても当然それは新チームとなる1,2年生のもので、試合感を維持することは難しかった。しかしユニフォームを脱いだ3年生が松井の練習に付き合ってくれて何とか状態を維持していた。

 制球の乱れは夏の神奈川大会の状態で、四死球を与えランナーを背負う。しかも満塁になりカウントは3ボール0ストライクと追い込まれる。しかし、ここからインコースに強気のリードをする森友哉と、そこに腕を振りきってストレートを投げ、三振を奪う松井裕樹の姿があった。8回を投げて8つの四死球を与えたものの、3安打12奪三振で1失点に抑え、スカウトは評価をさらに上げる。

 大会は2年生の怪物・安楽智大の活躍もあり、予選リーグを1位で突破すると、2次ラウンドの初戦となる韓国戦で再び松井裕樹が登場する。制球の乱れは代わらず6回で5四死球を与えるが、この試合でも1アウト満塁でカウントから2者連続三振を奪う。この試合は渡辺諒の4打数4安打、内田靖人の4打数3安打、吉田雄人の2安打2打点の活躍があり7回コールドで勝利する。

 続くキューバ戦も安楽の快投と1番吉田雄人に、森友哉、内田靖人、園部聡のクリーンナップがマルチヒットを記録、さらに渡辺諒が代表唯一のホームランを放ちコールドで勝利する。そして待ち望んだ決勝のアメリカ戦、エース松井が3度目のマウンドに登ると、相変わらず四死球で許すも4回までノーヒット8奪三振で抑えていく。しかし序盤から飛ばしていった為か、球威が落ちたところで、普段なら内野フライの当たりが、詰まりながらも外野手の前まで運ばれ、7回途中3失点でマウンドを降りる。森友哉は2,3塁の場面で打席が回るなどリベンジのチャンスは何度かあったが三振に倒れ、またしてもアメリカに敗れてしまう。

 アメリカへのリベンジはWBCでと心に誓い、その思いは松井裕樹、内田靖人、園部聡、渡辺諒にも伝わり合言葉となっていく。森友哉はプロ入りを表明し、それに続いて、松井裕樹、内田靖人などがプロ入りを表明していった。

 

ドラフト会議に向けて

大学生の最後の戦い

 大学4年生にとっては学生野球最後となる秋のリーグ戦が始まる。大瀬良大地はドラフト1位は確実と評価されていたが大学4年間の集大成として、杉浦稔大や九里亜蓮は自らの納得できるピッチングを取り戻すため、白村明弘にとっては失われた信頼を最後に取り戻すため、それぞれが戦いに臨んでいく。もちろん、ドラフト会議で指名されるかされないかの選手は、必死に最後のアピールをする。

 プロのスカウトも具体的に誰を指名するのかの作業に入り、ターゲットとした選手への視線が強くなる。それと共に候補もだんだん絞られ、スカウト同士がかち合う場面が増えていく。大瀬良大地投手に8球団、杉浦稔大投手に11球団が集まり、大学生のドラフト1位候補が絞られた。

 またシーズンの戦いが終わり、チームの具体的な課題が明らかとなると、左腕不足の球団は、横浜商大のの岩貞祐太投手や京産大・岩橋慶侍投手の視察を繰り返し、遊撃手に課題がある球団は西浦直亨、三木亮を、そして捕手が少ない球団は、梅野隆太郎、吉田裕太、嶺井博希、そして大商大の桂依央利を視察し比較して最も良い選手を狙おうとした。

 大学生のプロ志望届提出も始まり、続々と名前が掲載されていく。ケガに苦しんだ斎藤英輔や、リーグ戦で結果を出せなかった白村明弘の名前も掲載された。しかし、その中に法政大の河合完治と大城戸匠理の名前は無かった。河合完治は直前までプロ志望届を出すつもりだった。中京大中京時代に堂林翔太らと戦い、大学卒業後にプロ入りを決めていた。しかし、JR東日本と対戦した練習試合で、相手の遊撃手・田中広輔選手のプレーを見て、「この選手が同じチームになったら勝てない」と感じた。そして、プロですぐに活躍できる選手になってからプロ入りすると決め、トヨタ自動車に進む事を決める。大城戸選手もホンダ鈴鹿に進むことを決めていた。西浦直亨はプロ志望届けを提出、3人の道は分かれる事になる。

 

社会人の最後の戦い

 社会人も日本選手権に向けた予選や練習試合が行われている。パナソニックの秋吉亮に10球団、富士重工の東明大貴に8球団などドラフト上位候補投手が好投し、プロのスカウトが反応を見せる。また、三菱自動車倉敷オーシャンズの森唯斗が4安打完封、トヨタ自動車のベテラン・祖父江大輔が中日2軍を相手に6回5安打6奪三振と好投して、ドラフト候補に滑り込むような活躍を見せる。

 そして、この次期でもっとも注目されたのが、JR東日本と日本生命の練習試合だった。吉田一将は今年1年間安定感を見せ続け、この日も9回を3安打6奪三振1失点で完投し、高校時代に控えの3番手で、大学では2部リーグで投げていた面影は、もう全くなかった。日本生命は柿田裕太が先発し、5安打8奪三振で完封し社会人NO1の吉田に投げ勝って見せた。松本工で夏の甲子園で九州学院にめった打ちにあった柿田裕太の姿も、もうなかった。

 この試合には9球団30人以上のスカウトが集まった。そしてこの試合で柿田裕太のドラフト1位は決まる。さらにこの試合で試合を決めた1点は、日本生命・井上晴哉が吉田一将から放った1発によるものだった。井上晴哉の指名もこの試合で確実となった。

 

東アジア大会

 また、東アジア競技大会で代表チームが結成され、吉田一将、東明大貴、浦野博司、秋吉亮、石川歩、そして井上晴哉、田中広輔といった面々が集結する。その中で唯一呼ばれたのが大学日本代表から外れた山川穂高だった。大会前の練習試合、10球団32人の集まったこの試合で、リリーフで登板した東京ガスの石川歩は149km/hの速球を見せる。リリーフで登板すると150km/h以上の球速を記録し、6月には横浜DeNAの2軍からは2イニングで4者連続三振を奪ってパーフェクトに抑えており、都市対抗などの投球で評価は吉田一将に並ぶほどになっていた。巨人はスカウトが「今年最も成長した選手」と評価し9月には早くもドラフト1位候補にリストアップした事を公表している。

 大会では秋吉亮、東明大貴、浦野博司は、好投を見せたかと思うと、失点をしたりと思うような投球はできなかった。しかしエースの吉田一将は台湾、韓国といった大切な試合に先発して結果を残し、金メダルを獲得した。山川穂高は韓国戦で満塁ホームランを放っている。

 

ドラフト1位が決められない!?

 高校生、大学生、社会人の全ての戦いが終わり、ドラフト会議で指名する選手の材料はすべて出揃った。しかし、12球団で1位指名を公表している球団は無い。どの球団もスカウト会議を開き、松井裕樹、大瀬良大地、吉田一将の名前を出すものの、「1位指名の決定はドラフト直前になる」というコメントを繰り返す。

 ドラフト会議直前になってもその状態は続いた。他球団の情報を探り、各球団とも1位指名、2位指名のシミュレーションに時間をかけた。そしてどの球団のスカウトも思ったのは「大変なドラフトになる」という事だろう。

 弱気になる球団もあった。指名競合を避け、単独指名を狙うというシナリオも用意し、監督も加わってのスカウト会議に臨む。そこでまさに勝負の最中だった東北楽天・星野監督は「強気にいけ」とフロントの背中を押す。昨年のドラフトで2回抽選を外した広島は、リーグ戦の勢いもあり、フロントは「行け行け」の状態となっていた。

 こうして10月24日、ドラフト会議の日を迎える。


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