2018年ドラフト総決算(8)~ドラフト会議~

2018年ドラフトニュース

10月25日のドラフト会議も直前に近づき、選手が、球団がさまざまな決断をしていく。そしてドラフト会議当日の朝のスポーツ紙各紙では、根尾昂の名前が踊っていた。

高校生の決断

春夏連覇を果たし、U18や国体の日程も終えた大阪桐蔭の選手たちもそれぞれの進路を表明する。根尾昂は、「とにかくプロに入りたいという思いがあります。」と話し、また投手か野手か、または二刀流かで揺れるファンやスカウト達に、「ショートかなと思います」ときっぱりと投手の未練を捨ててショート一本でやっていく決意も示した。また、藤原恭大は「上の世界に挑戦したい。高いレベルでやっていきたい。まだまだですけど、最終的にはトリプルスリーを目標にしたい」と、さらに上を目指す決意を語った。大阪桐蔭では、ナイン全員がプロ注目候補だったが、そのうち、根尾選手、藤原選手とエースの柿木蓮投手、左の先発・横川凱投手がプロ志望をし、中川卓也は大学に進学することを決めた。中学の時に一度チームメイトとなり、高校で3年間を過ごした藤原とは、別の進路を歩む。そしていつか、藤原のような注目選手になって、また藤原と同じチーム、または同じ舞台でプレーするイメージを描いた。

一方、中学で藤原とともにプレーした小園海斗増田陸もプロ志望をする早稲田実で早稲田大進学の噂もあった野村大樹も迷う事なく、先輩・清宮のいる舞台、そしてチームメイトが進む舞台を目指しプロ志望を決めた。他にも万波中正鈴木裕太太田椋、153キロを投げた倉敷商の引地秀一郎、浦和学院の渡邉勇太朗、花咲徳栄の野村佑希、智弁和歌山の林晃汰、明徳義塾の市川悠太などもプロ志望届を提出していく。

その中で一部の有力選手はプロ志望をしなかった。神奈川で万波とともに注目された東海大相模の森下翔太は、高校通算57本塁打を放ち指名の可能性も考えられたが、大舞台や3年生でアピールできなかった事から力不足を認め、大学で成長することを誓う。同じく神奈川のスラッガーで星槎国際湘南の松下壮悟もプロ志望をしなかった。そして左腕NO.1と言われた高岡商の山田龍聖や、横浜高校で軟式出身者としてエースまで駆け上った板川佳矢なども社会人や大学でのプレーを選択する。また夏の甲子園で大きな活躍を見せた近江の北村恵吾は、当初はプロ志望を口にしていたものの、兄の言葉に「本当にプロで活躍できるのか」を考え直し、大学進学に進路を切り替えた。

その中で最も進路が注目されたのが、夏のヒーロー・金足農の吉田輝星だった。吉田には事情があった。高校の2年から吉田は、八戸学院大で投手育成に定評のある正村監督に投手の指導を仰ぎ、それによって能力を開花させた所も大きかった。そして春までの段階で卒業後は八戸学院大に進学し、正村監督の元で大学日本一を目指すことを決めていた。しかし、甲子園の活躍でもともとプロ志望だった吉田投手の心に、プロに入りたいという思いが強くなっていった。

U18で根尾や藤原、小園、柿木などと情報交換もした。家族からも大学に進学した方が良いという説得も受けた。しかし吉田は、家族や監督に自分の思いを丁寧に説明し、最終的には正村監督もプロ入りを応援していた。

大学生の決断

一方、大学生も決断の時が来た。東洋大のBIG3、上茶谷大河甲斐野央梅津晃大はそれぞれの思いを胸にプロ志望を決断した。そして中川圭太も主将として最後のシーズンは連覇を逃し、個人的にも大きなアピールができなかったものの、2度目のプロ志望届を提出した。他にも、国学院大の清水昇、早稲田大の小島和哉などもプロ志望し、さらに日体大の松本航東妻勇輔、法政大の中山翔太向山基生菅野秀哉森田駿哉、明治大の渡辺佳明逢澤崚介佐野悠太、亜細亜大の頓宮裕真正随優弥中村稔弥、立命館大の辰己涼介山上大輔、大学NO.1立正大の小郷裕哉伊藤裕季也、捕手と評価をされた大商大の太田光滝野要はチームメイトとともにプロ志望をし、提出選手全員でのプロ入りを目指した。他にも九州NO.1スラッガー・九産大の岩城駿也、そして関西NO.1の球威を持ちながら、4年では故障に苦しんだ山本隆広もプロ志望をした。

また、富士大では鈴木翔天佐藤龍世竹内広成の3人がプロ志望をしたが、村上英佐々木健の実力派投手はプロ志望をしなかった。国際武道大でも伊藤将司はプロ志望をしたが、同じくプロが注目した平川裕太青野善行はプロ志望をしなかった。東海大では青島凌也飯嶋海斗もプロが注目しながらもプロ志望はせず、九州国際大は1年時から投手カルテットと注目された佐藤卓実高椋俊平江口賢太山野敏毅はプロ志望をしなかった。

プロの決断

一方、プロ側もドラフト1位で誰を指名するのかを決断をしなければならない。その中でまず中日が先手を打つ。地元出身の選手として早くからマークをしてきた根尾昂を1位指名することを、10月5日に公表する。既にこの時点で高校生の野手を狙う球団は多く、その1位候補には根尾の名前は必ず上がっていた。しかし中日の先制攻撃によって公表のきっかけを失い、ひとまず金足農・吉田のプロ志望の表明を待ちながら、他球団の動向を探っていった。

そしてドラフト会議の2日前、23日にヤクルトも根尾選手の1位指名を公表した。根尾一色ドラフトになるかと思われた矢先、ソフトバンクが小園の1位指名を公表すると、オリックスが同じタイミングで小園の1位指名を公表する。また千葉ロッテは藤原の1位指名を公表した。これで秘めておく必要がないと24日に巨人は根尾の1位指名を公表した。

6球団が事前の1位指名公表に踏み切り、残りの6球団は公表せず当日を迎える。北海道日本ハムは根尾選手の1位指名の可能性が高く、25日の朝のスポーツ紙では他にも楽天、阪神、横浜DeNAも根尾選手の指名が有力という情報が流れた。広島は高く評価していた小園選手が有力、そして西武は根尾選手などの指名を検討していたものの、辻監督の直前の懇願により、即戦力投手の一本釣りを狙っていた。

ドラフト会議

根尾選手には6球団以上の1位指名も予想されたが、蓋を開けてみると、小園選手に4球団、藤原選手に3球団が指名し、根尾選手には事前に指名を公表した3球団とすでに指名を決めていた日本ハムの4球団だけだった。それでも高校生野手に11球団が1位指名する異例の展開に、ドラフト会議会場は盛り上がりを見せた。唯一投手を指名した埼玉西武は大学NO.1の日体大・松本の獲得に成功した。

抽選は5回に及んだ。まず1回目の指名で重複した3人の抽選が始まり、まず藤原選手の抽選では、千葉ロッテの井口監督が残り福を手にした。外野手の世代交代に重要なピースとなる藤原投手の獲得に成功した。根尾選手は中日の与田新監督が獲得をした。地元の逸材で期待の内野手の獲得に成功した。そして小園選手にはおそらく4球団による抽選は予想はしていなかったであろうオリックス、横浜DeNA、ソフトバンク、広島が抽選に臨み、これを最後にGM退任を決めていたDeNAの高田氏が肩を落とす中で、広島の緒方監督が余裕のガッツポーズを見せた。

抽選を外した球団のうち、藤原を指名していた東北楽天と阪神は、再び外野手の立命大・辰己を指名する。また根尾の抽選を外した巨人と小園の抽選を外した福岡ソフトバンクも辰己の指名に加わる。抽選の結果、一番くじの楽天・石井新GMの手に当たりくじがつかまれた。小園を外した横浜DeNAと根尾を外した東京ヤクルトは、大学トップクラスの右腕、東洋大の上茶谷を指名する。2球団の抽選によりDeNAが交渉権を獲得し、5回の抽選が終わった。そして小園を外したオリックスは内野手にこだわり天理の太田選手を、またNO.1の獲得を目指していく北海道日本ハムは、ポジションにこだわらず高校NO.1投手と評価した金足農の吉田を指名、交渉権獲得が決まると栗山監督は、根尾選手を外したものの「一番良いと思っていた投手を獲得できた」と喜んだ。

ここまでくると、指名重複は少なくなる。各球団とも補強ポイントで最もよいと評価する選手を狙う。阪神は外野手にこだわり社会人NO.1外野手の大阪ガス・近本選手を指名、高校、大学、社会人のNO.1外野手を指名し続けた。巨人はドラフト直前に他球団のマークが少なくなる中で素晴らしい投球を見せていた八戸学院大の高橋優貴投手をNO.1左腕と評価して指名、ソフトバンクは159キロを投げるスケールの大きな東洋大・甲斐野投手を指名し、ヤクルトは松本投手、上茶谷投手に続く先発型右腕として評価していた国学院大・清水を指名した。

ドラフト2位以降では大きな波乱はなかった。しかし2位でも内野手など野手の指名が続き、中学時代から小園、藤原とともに戦った増田陸野村大樹も2位、3位の順位で指名されていった。東洋大のBIG3のもう一人、梅津投手も中日が2位で指名し、中日は根尾、梅津の1位クラスの選手を2枚獲得したことで、その夜には最も高い評価を受け、球団関係者も中日ファンも喜んだ。

社会人では26歳の荒西祐大投手がオリックスの3位で指名され、8年間かけて社会人野球を飛び立つ時が来た。また同い年で3年間指名を待ったのセガサミーの森脇亮介投手も、荒西が指名された事で希望が湧いた。そしてリリーフ投手のほしい西武が6位で森脇投手を指名した。そしてもう一人の同い年、奥村政稔にもソフトバンクが7位で指名をした。高校時からずっと追いかけてきたとソフトバンクのスカウトは話し、ようやくプロでできるという精神的な成長を見届けての指名だった。

一方、なかなか名前が呼ばれずに不安になる選手もいた。大阪桐蔭のエースだった柿木蓮は、根尾、藤原が1位指名に喜び、甲子園の決勝で投げ勝った相手の金足農・吉田も1位で指名される。そして大阪桐蔭の先発では柿木、根尾に次いで3番手だった横川凱も巨人の4位で指名される。結局、柿木は実績を評価した北海道日本ハムが5位で指名し、根尾、藤原、横川にはドラフト順位的には下から追いかける立場になった。

そして最後まで名前を呼ばれない選手も大勢いる。綺麗なフォームからダルビッシュ2世と評価された埼玉栄の米倉貫太や、藤嶺藤沢で二刀流で注目された矢澤宏太、大学生では関西NO.1投手と評価された山本隆広もケガの影響は避けられなかった。名城大の栗林良吏は上位縛りによって指名は回避され、法政大の菅野秀哉森田駿哉も名前は呼ばれなかった。九産大の岩城駿也や明治大・逢澤崚介など大学生の野手にとっては、高校生野手の豊作に影響を受けた形となった。

また社会人でもJX-ENEOSの鈴木健矢や東芝の岡野祐一郎、Honda鈴鹿の瀧中瞭太や明治生命の高橋拓巳も指名をされなかった。社会人投手で指名された選手とされなかった選手の違いを説明しろと言われても、説明のしようがない。ほとんど差のない評価付けの中で指名はされなかった。

最後に

2018年のドラフト会議では、高校生46名、大学生32名、社会人18名、独立リーグ7の合計103名が指名され、全員がプロの世界に入ることが決まりました。そしてそれと同じくらい、これまでにドラフトで指名され、数年間プロでプレーしてきた選手がプロ野球を離れていきます。「もっとやれそうだ」という選手が毎年、プロ野球から離れていきます。その度に、12球団×(70人+育成枠)の枠を争う競争は、非常に狭いように感じてしまうのです。

それでも野球選手はプロ野球を目指します。そしてプロ野球に残って長年プレーするため、レギュラーを狙い定着を目指します。プロ野球でレギュラーとしてプレーしていても、成績によってはファンから批判を受ける厳しい世界ですが、多くのファンから応援される、野球選手にとってそれだけ憧れの舞台で魅力的なのでしょう。

こうして毎年、努力を続けてようやくプロ入りした選手を見ていると、また悔いを残しながらもプロ野球を離れる決断をする選手を見ていると、とてもプレーに対して野次を飛ばすことなんてできません。どんな選手にも尊敬の念が湧くし、プロを離れた選手にも、一度はこの世界でプレーをできた事に、心から尊敬をします。

今年のドラフト会議でプロ入りの夢をかなえた選手たちは、本当におめでとうございます。しかしプロや、今までの精一杯の努力で夢をかなえた選手たちが集まっている舞台です。そして私たちは、アマチュア時代に期待した以上の姿を、プロ野球の舞台で見せてくれるのを楽しみにしています。

そしてドラフト会議で指名されなかった選手は、すでに新しい心で、新しい進路に向けて動き始めているのでしょう。1年後、2年後、3年後、4年後に、またこのページで応援をできることを、楽しみに待っています。

夏の甲子園100回大会、そして平成最後のドラフト会議が終わりました。来年10月には新元号での1年目のドラフト会議が開催されます。ドラフト会議ホームページは1996年からスタートし、来年は23年目のシーズンを迎えます。変わることなく、それでも少しずつ変えていきながら、また多くの選手を紹介して行きたいと思います。

(おわり)

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