東京六大学野球春季リーグ戦の最終週第3日が神宮球場で行われ、慶大が3対0で早大を下して対戦成績を2勝1敗とし、2023年秋以来5季ぶり41度目のリーグ優勝を全5校から勝ち点を奪う「完全優勝」で果たした。この日、先発したのは今秋のドラフト候補左腕・渡辺和大投手(4年)、この早慶戦で3連投という過酷なマウンドだったが、8回5安打無失点11奪三振と早稲田大を完全に封じた。前日の「天覧試合」での逆転サヨナラ負けという極限の悔しさを力に変え、2008年の早大・斎藤佑樹投手以来となる「1シーズン7勝」の大偉業に到達した。最優秀防御率(1.28)、最多勝、ベストナインなど投手4冠に輝いた絶対的エースの熱投が、陸の王者を神宮の頂点へと導いた。
天覧試合サヨナラ負けの悔し涙を力に、朝7時のトイレで一人流した涙
前日の5月31日に行われた早慶2回戦は、32年ぶりの「天覧試合」として天皇陛下と愛子さまが観戦される歴史的な一戦だったが、1点リードの9回裏に救援マウンドに上がったエース・渡辺和大投手が早大打線につかまり、まさかの逆転サヨナラ負けを喫した。その悔しさはあまりにも重く、布団に入っても悔しさが消えず寝付けない夜を過ごしたという。
迎えた決戦の朝7時。渡辺和大投手は合宿所のトイレに一人で駆け込んだ。「みんなの前では感情を出せないので」(スポーツニッポン)と悔しさを隠しつつ、「寝たら基本は立ち直るけど、あまり寝られず涙が出てきそうになって」(デイリースポーツ)と切り替えができていない自分と向き合った。そこで、「このまま試合入っても、やっぱ良くないなと。1回、感情出そうと思って」(スポーツ報知)、「一旦もうリセットのつもりで泣いちゃおうと。それが逆に良かったですね。もう意外とそこでスッキリして」と、感情を全て吐き出してマウンドへの闘志を整えた。
試合前の段階では、投手コーチの上田誠コーチから「明日どうする?」と声をかけられていたが、「ワンアウトでも取るんで、行かせてください」と自ら志願(スポーツ報知)。「1回で降りてもいい。1アウトでも多く取って、次に回すっていう気持ちで投げました」と、覚悟の神宮のマウンドに登った。
エース
最高気温33度の過酷な猛暑、ほとんど眠れていない状態だったが、初回から早大打線を力強い直球とキレのある変化球で手玉に取った。2回裏に慶大が8番・横地広太選手(4年)の押し出し四球で先制すると、渡辺和大投手はさらに波に乗り、5回までに二桁奪三振に到達する快投を披露する。
6回裏には花巻東高出身の3番・指名打者である小原大和選手(4年)が右翼席へ豪快な追加点ソロ本塁打を放ち、リードを3点へと広げて勝利に近づくが、終盤8回の裏、2死一、二塁のピンチを迎えた。そこで渡辺投手は最後の力を振り絞って早大の4番・寺尾選手を二飛に打ち取ると、雄叫びを挙げて124球の熱投を終えた。
ベンチに戻ると、大仕事をやり遂げた安堵感から涙がとめどなく溢れ出た。「昨日打たれた後で正直、次もあるんでみんなの前で感情を出せなかった。自分の仕事ができた安心で涙が止まらなかった。本当にほっとしました。マウンドを降りて点差を見て。安心したわけじゃないんですが、とりあえず自分の仕事がなんとかできた、という気持ちで、涙が止まらなかった」と、エースとしての壮絶な重圧から解放され、マウンドで見せた気迫の表情から一転、涙が溢れた。
斎藤佑樹投手以来となる1季7勝の金字塔
最後は2年生左腕の鈴木佳門投手が1イニングを3人で締め、胴上げ投手となった。そして渡辺投手に今季7勝目の白星が灯った。1シーズン7勝は、早大の絶対的エースとして神宮を沸かせた斎藤佑樹投手以来、実に18年ぶりとなる。リーグ最多勝だけでなく、防御率1.28で最優秀防御率、ベストナインも獲得して文句なしの投手4冠に輝いた。
堀井哲也監督も「私の投手起用で無理をさせてしまい、体力的に限界だったと思うが、これまでやってきた体力づくり、投げ込みの力を出し切ってくれた。ぐっと来ました」(中日スポーツ)と惜しみない絶賛を贈った。「絶対に勝たないといけないという今季で一番の圧があった。ホッとしています」(スポーツニッポン)と語る姿は、エースとして更に成長した姿だった。
巨人・浅野翔吾選手からエール、「巨人にいい報告をしてくれ」
渡辺和大投手の心の支えとなったのは、高松商高時代にともに甲子園を盛り上げた、同期のスターである巨人の浅野翔吾選手だった。天覧試合で負けた前夜も浅野翔吾選手から連絡がありエールをもらっていたという。この日のスタンドには浅野翔吾選手も駆けつけていたようで、浅野選手に対してどんな報告をしたいかという問いに、「巨人に、いい報告してくれと言いたいです」(スポーツ報知)と話し、プロ野球への思いも込めて笑いを取った。高松商高時代に夢見た「浅野翔吾とプロ野球の舞台で対戦すること」への夢を、今秋のドラフト会議を経て現実のものとする活躍を、この春に十分に見せてくれた。
完全優勝を果たした慶大は、6月8日に開幕する全日本大学野球選手権への出場権を獲得した。目標は春秋の六大学連覇、明治神宮大会を合わせた「4冠」の頂点だ。昨年は早稲田大が準決勝で敗れるなど、東京六大学勢は2021年に慶応大が日本一になってから頂点に届いていない。東京六大学のプライドを持ち、エースが左腕を振る事になるが、その負担の大きさもやはり心配ではある。
【渡辺 和大】 プロフィール
- 氏名:渡辺和大(わたなべ・かずひろ)
- 所属:慶應義塾大学(4年)
- 出身:香川県坂出市(坂出市立坂出中学校 - 高松商業高校出身)
- ポジション:投手
- 投打:左投左打
- 身長・体重:180cm、75kg
- 主な特徴や実績:自己最速151キロ。高松商高時代は巨人・浅野翔吾と同期で2年夏、3年夏に甲子園出場を果たし、3年夏にはベスト8進出。慶大進学後は2年秋に最優秀防御率を獲得。4年春は上田誠コーチ指導のもとで2段モーションの導入と、落ちるツーシームを習得し、投球技術と精神面の驚異的な安定を両立。春季早慶戦で先発、救援、先発の3連投を敢行し、8回無失点11奪三振の快投でチームを5季ぶりの完全優勝へと導いた。08年の斎藤佑樹以来となる1シーズン7勝、最優秀防御率(1.28)、最多勝、ベストナインの投手4冠に輝いた今秋ドラフト注目左腕。














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